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転生令嬢は喋れない  作者: どりーむぼうる
第2章 話せない令嬢と読み取る女王
20/34

2-4:王女様はさとり娘

「レディ・ラリア。お待ちしておりました」


 どういう状況これ? 目をぱちくりさせる私を見て、女王はくすくすと笑っている。


「予想通りの反応ありがとうございます。さて、こちらにお座り下さいな。茶菓子も用意してありますので」


 数時間ほど前に謁見した恐れ多い女王様が、ニコニコしながら私に向かいのソファに座るようにと手招きをしている。なんだこれは。試されているのか、私。


「大丈夫ですよ、貴方のマナーを試したりしている訳ではありませんので。気楽にして、ゆっくり話でもいたしましょう?」


 謎の威圧感を感じる! 何これ怖い!

 いや、でも……これは従わないと逆に危ない奴だ。大人しく従おう。私はそそくさとソファの前に進むと、一礼をして腰掛けた。高級なのが一瞬でわかるほど柔らかくて座りやすい革張りのソファだ。

 女王は私が座ったのを確認すると、自らティーポットを手に取り、カップに紅茶を注いで私に差し出してくる。なんだろうこの状況。ちょっと恐ろしすぎないか。


「そんなに緊張なさらなくてもいいのですよ?」


 そんなこと言われてもなぁ!


「……そうですね、先に貴方を招いた理由をお伝えした方がよろしいでしょう。簡単に言いますと、貴方の特殊性に目をつけまして、侍従として私に仕える気はないかお聞きしようと思いまして」


 え? 待って、ちょっと何言ってるか分からない。特殊性? というのは……私が喋れないことか。で、それに目をつけて侍従として働いてくれと……。

 ごめん、やっぱり何言ってるか分からない。


「混乱されていますね。まあ、当然でしょう。ですから、理由をお伝え致します。従者の方に席を外して頂いたのはそのためですからね」


 私に伝えることができて、ラフィネには伝えられない情報か。

 女王は身につけている赤い宝石のペンダントに注目させるように手を添えた。赤い瞳と同じ色をした宝石のペンダント。……ペンダントが何かあるのだろうか。


「私達王族はさとり妖怪。人の心を読む力に長けた一族なのです」


 さとり妖怪? ……いや、待てよ。確か前世の私が子供の頃に調べていた気がする。日本の妖怪で、第三の目を持ち、その目で見た相手の心を読むとかなんとか。こっくりさんとかやってる時に色々と調べてたっぽいんだよな。なんでこんなもの調べてたのか謎だし、思い出そうと思わないと思い出せないくらいふんわりした記憶でしかないけども。

 と、いうことはつまり……そのペンダントってペンダントじゃなくて第三の目ってこと!?


「ご存じのようで何よりです。説明する手間が省けました。お察しの通り、このペンダントは私の体の一部です。……と言っても、物理的に繋がっている器官ではなくこのように取り外しができる魔法媒体のようなものですが」


 そう言って彼女はペンダントを外して見せた。謁見の時にこのペンダントに見られていたような気がしたのは気のせいじゃなかった訳か。

 私が納得していると、女王はペンダントを付け直して続ける。


「もちろん、こんなものを漂わせておく訳にはいかないので、擬態のために加工をし、ペンダントやブローチ型にして身につけている訳です」


 なるほどな……? つまり謁見の時も私の考えてた事が全て筒抜けだったというわけか。そう思うとめちゃくちゃ恥ずかしいな、おい。

 とはいえ、こんな事を簡単に教えてしまっていいのだろうか。


「……でも、貴方なら口を滑らせる事はないでしょう?」


 文字通り滑らせる口がないのですから、と。微笑みながら言う女王。私の特殊性に目をつけるってそう言うことか……。私が喋れないのを良いことに、人に言えない情報を伝えてメモ代わりにしようと……。


「それもありますし、私の一族であれば心を読んで情報を得る事ができますので、秘匿情報の伝令に適しているのですよ。仮に捕らえられても情報が漏れる危険性がありませんし」


 敵に捕まる事を想定されるのは嫌だなぁ……。とはいえ、言いたい事は分かった。まさかこの人生ハードモードまっしぐらの足枷が役に立とうとは。人生分からないものだ。


「それに、疑似的な意思疎通はできていてもまともな会話は出来ていなかったでしょう? 私とであればそんな面倒な過程を経ずに会話をする事が出来ますよ。貴方は考えを読まれて困るような裏工作をするような人間ではなさそうですし、丁度良いでしょう?」


 む……なんか馬鹿にされた感があるけど、まあ間違ってはないか……。

 と言うか、そうだ。これも心読まれてるって事は私めちゃくちゃ失礼なこと女王に言ってる事にならない? えーっと、頭の中でも敬語使って考えないといけないのかこれ。


「ああ、気にしないで下さい。私が勝手に読んでいるだけですので。むしろ、取り繕わないでいて頂く方が助かります」


 アッハイ……。まあ、自然体でいいのはこちらとしても楽でいいけど……。


「あぁ、でも……」


 何だろう、私変なこと言ってたかな……?


「私の事は“女王”ではなく、ちゃんと名前で呼んで頂けませんか?」


 そういえば、私ずっと女王って言ってたな。ええと……ティーレ様?


「はい、よく出来ました」


 満面の笑みでそう返してくるティーレ様。若い王様だと知ってはいたし、実際見た目も20代位だけど、こうして見ると年相応感があるな。


「ふふ、ありがとうございます。……さて、もう一つ貴方を招いた理由がありましてね。と言うのも、貴方が言葉を失った代わりに得たもの。それを知りたいのです」


 得たもの……といえば、前世の記憶だけど……。そういえば、あの女神はこの前世の事も女神自身の事も伝えられると困るとか言ってたけど、結局全部バレてるな。じゃあもう呪い解いてくれよと思わなくもないけど、バレた時に制裁が来たわけでもないから多分忘れてるんだろうな。なんてガバガバなんだ。


「その前世の記憶、少し詳しく思い出して頂けませんか?」


 前世の記憶か……。石より硬い地面、建物、鉄でできた電気で動く乗り物、謎の原理で動いている通信機……。 うーん、現世と比べたら色々と違い過ぎてて面白いけど、参考にはならない気がする。なんせ前世含めて私はあの世界で使われていたものの仕組みや材料をよく知らないのだ。


「まるで東洋の地のような世界に住んでいたのですね。興味深いです」


 ……東洋の地? 


「ああ、ご存じありませんでしたか。……そうですね、詳細は別の機会にさせて頂くとして、簡単に説明させて頂きますね。この世界……定義的には惑星と定義すべきでしょうか。ここには大きく分けて二つの大陸が海に浮かんでいます。その片方を“西洋の地”、もうひとつを“東洋の地”と呼びます。この国があるのは西洋の地と呼ばれている大陸で、魔法文化が栄える世界になります。逆に、東洋の地は科学が発展しており、西洋の地とは物理的に断裂されており、互いに不可侵領域となっているのです」


 科学が発展している大陸か……。確かに前世の私が住んでいた世界は魔法なんてなかったし、科学技術が発展していたから、聞いている限りでは東洋の地に近いのかも。

 不可侵領域……というのであれば互いの大陸間で交流などは行われていないらしい。そもそも入ることができないのであれば、そこに呪いを解くカギがあったりしたら嫌だな……。


「それは……どうでしょうね……。でも、こちらから覗くことができない東洋の技術に近い文化を間近で見てきた貴方の経験があれば、魔法の水準が低い我が国を技術革新によって栄えさせることができるかもしれません」


 技術革新……!? や、ちょっと待って。私道具の作り方とか技術とか何も分からないぞ!? そんなことできる気がしないんだけど!

 慌てる私をよそに、ティーレ様は心配いらないとでも言いたげににっこりとほほ笑む。


「そもそも科学技術の発展していないこの地であの科学技術をそのまま再現するのは無理があります。ですから、規格をこちらに合わせる必要があるのです。つまり、作り方は問題ではありません」


 どうでしょう、協力頂けませんか? と、そう問いかけてくる彼女に、私はどう答えるべきか大いに迷った。

 そもそも情報量が多すぎて飲み込めない。心が読めるから私が話せなくても問題ない、むしろ有用だと。しかも私の前世の記憶を社会発展に繋げることができるかもしれないと。だから私に国交調査員ではなく侍従になれと。

 いや、とてもうまい話だとは思う。何しろ王の侍従なんてすごい高位職だ。王の為という名目が立てば色々なことができる。いい事ばかりでもないだろうけど、権限も強い。それに、この役に立たない前世の記憶が役に立つに越したことはない。魔法は使えない私だけど、前世みたいな空を飛ぶ乗り物が作られたら私だって空が飛べる。

 うまい話……だけども。直ぐに首を縦に振る気は起きなかった。


「悩まれていますね。ええ、構いません。提案をよく吟味してから決定するのは良いことです。帰ってからよく考えて、返事を頂ければと思います」


 そう言って、彼女は便せんをひとつ渡してくる。綺麗な装飾が施された可愛い便せんだ。


「私からの話は以上です。お返事、お待ちしております」


 姿勢を整えて、私に対して深々とお辞儀をするティーレ様。女王にこんな対応されることなんてそうそうないよな……。改めて特殊な状況に困惑してしまう。

 私もできる限りの美しい礼を返して、便せんを手に部屋を出た。扉を出ると、向かい側で執事と話をするラフィネが見えた。ラフィネは私が出てきた事に気が付くと、こちらに微笑みを向けた。


「お嬢様、お疲れさまでした」


 ラフィネがそう言うと、私も微笑みを返した。そのやり取りを見ていた執事が、姿勢を正して私に向き直る。

 改めて見るとティーレ様に面影が似ているというか、何と言うか……って、そうだ。その胸に付けてる赤い宝石のブローチ。これって……。

 と、私が思った所で執事が人差し指を立てて口元に当てた。これやっぱり考え読まれてるよね。ご内密に、という事だろう。……うん、他の人に伝えようとは思わないけどさ……大変な事になりそうだし。


「メーシス様。色々とお話し頂きありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。わたくしめの拙い話にお付き合い頂き感謝いたします」


 ……何の話をしていたんだろう?


「この度は、長い時間お付き合い頂きありがとうございました。外に馬車をご用意しておりますので、こちらへ」


 執事……メーシス様はそう言いながら歩きだす。私達はそれについて行き、城を出ると目の前に馬車が用意されているのが見えた。用意がいい。


「本日は、誠にありがとうございました。そして、成人おめでとうございます。……貴方様のこれからのご活躍をお祈りしております」

「こちらこそ、盛大なお祝いをありがとうございました。この国のさらなる発展に貢献できるように、お嬢様共々取り組ませて頂きます」


 そんなことを言いながら、私達は互いに礼をした。そして用意された馬車に乗り込むと、深々と首を垂れるメーシス様に窓から頭を下げた。

 王宮の門が開かれて、馬車は王宮を後にする。私は渡された便せんを見ながら、聞いた話をどうラフィネに伝えようか、どんな返事を返せばいいのかを考え込む。


「そういえばお嬢様、頂いた記念品の中身を見てみませんか?」


 言われて、私はハッと顔を上げた。そういえば、そんなもの貰ってたな。すっかり忘れてた。


「お嬢様……? 大丈夫ですか? そんなに悩まれるようなお話をされたのですか?」


 私が心ここにあらずな形になっていたせいでラフィネが心配して問いかけてくる。ううん、どう説明したものか。でも先に記念品の中身を確かめよう。私は辞書を開いて「後で」と伝えた。


「……分かりました、後で二人で考えましょう。こちらが記念品です」


 ラフィネに渡された箱を、私はゆっくりと開封する。かなり小さくて軽いから、そんなにおおきなものではないはずだけど……。

 箱の中の包みを開いて行くと、見覚えのある赤い宝石……の、ブローチ。

 これ……いや、何も言うまい。


「あぁ、やはりこのブローチなのですね。懐かしいです」


 昔っからこうなのか……。レプリカなんだろうけど……。

 逆にみんな持ってるから、あれが王族の第三の目だと判別できなくするためのカモフラージュなのか。……この国の闇を一部垣間見てしまった気がする。

 何となくこれを付けることは憚られたので、私はブローチをそのまま箱に戻した。


「お嬢様は身に着けずに保管しておくタイプなのですね」


 いや、まあ。そうではないのだけど……言わないでおこう。

 馬車に揺られながら、私は悶々と考える。……さて、どう伝えて、どう判断したものだろう。

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