表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生令嬢は喋れない  作者: どりーむぼうる
第1章 おしゃべり伯爵の御令嬢は無口少女
10/34

1-9:少女は手紙を開いた

『親愛なるレディ・ラリアへ


 あの日から暫く経ったけれど、君は元気にしているかい? そろそろ夏の便りが届く頃かな。向日葵も少しずつ開いたりしているね。

 パーティの後、父上に君の事を色々と聞いたよ。やはり君はなんらかの理由で話せなくなっているようだね。……ああ、心配しないでほしい。まだこの事を他人に伝えたり公表したりする気はないから。

 それから、メイドの子が父上に精神魔法の事を聞いていたそうだね。父上も返事をメイドの子に出したけれど、君にも伝えておく為にこの手紙にも記載しておこうと思う。


 精神魔法の存在は知っているかな。僕たちが使う普通の魔法とは違って、人の心に作用する魔法の事なんだ。これはこの国では使われていない、というよりも知られていないし使えない。僕も外交で別の国に訪問したときに教えてもらったんだけど、どうもその国でもあまり詳しい事は知られていないみたいなんだ。

 一説によると、精神魔法は天使が使うらしい。天使が本当に居るのかは置いておいてね。

 精神魔法は呪文を唱えるだけで相手の行動を制限したり、怒らせたり悲しませたりしたり、記憶を改ざんしたり、性格を変えたりしてしまう。禁忌の魔法だ。そんな魔法を人間が使えたら、どうなるかは分かるよね。だから天使や神が人を制御するときにだけこの魔法が使われる。というのが僕の聞いた限りの精神魔法の知識。父上も同じ話を聞いていたはずだから、父上の出した手紙も多分同じ内容が綴られていると思う。

 この話を聞きに来たという事は、君が話せなくなった原因が魔法によるものだと考えてのことだろう。でも、さっき書いた通り、この魔法は人には扱えないものなんだ。だから、魔法で君が話せなくなったとは僕は考えにくいんだけど、君の見解はどうだろう。次に会えたときに教えてくれると嬉しいかな。


 さて、前置きが長くなってしまったけれど、本題に入ろう。

 今回僕が手紙を送ったのは君を屋敷に招待する為なんだ。パーティの日に手紙を贈ると約束したからね。許可証を同封しておくから、そこに書かれている日にまた会おう。

 婚約とか、魔法とか、今の君は色々と考えたい事があるだろうけれど、それは今回少し置いておいて、ちょっと遊びに行くくらいの感覚で来て欲しい。父上にもそう伝えてあるから心配しないで。

 美味しい紅茶と菓子を用意して待っているよ。


 レフレッシ・エピメイリス・デリゲンス』



 手紙を読み終えた私は、封筒の中を探ってもう一枚の紙を手に取った。

 『通行許可証』と書かれた紙には、私の名前と彼のサインに加えて訪問日時が記載してあった。


『鶏頭の月下 第10の暦』


 鶏頭の月下は8月の意である。文章で送るときは大抵この表記だ。今は7月の半ばなので、約2週間後。ちなみに7月は撫子の月下。暦の文化は大昔東洋のとある国で使われていたものを取り入れて以来この体裁を守っているんだとか。前世でも大体同じ暦だったから、思い出したときに色々困惑しなくて済んだのはちょっと幸いだったかもしれない。

 2週間後か。楽しみなような、怖いような。とりあえず、ラフィネには付いてきてもらうとして……うーん、どう対応すればいいのやら。会話ができないから、訪問するだけでも色々と不安だ。向こうがある程度状況を理解してくれてるからいいものの。


 ……それよりも、気になるのは精神魔法の話だ。天使や神が使う禁忌の魔法? 女神……相手を制御する……。

 点と点が繋がるような感覚を覚える。やっぱりこれは魔法によってなったものなのか。しかも私の国では知られてすらいないと。ううん、不明だった部分が明るみになっただけで大きな進歩だけど、解決するとなるとまだまだ先が見えないというか。

 どちらにしろ、この現実世界にいるのかすら分からない女神がいた場所に辿りつかないといけない状況は対して変わっていない。……天使ならワンチャン現れる事が……いや、ないか。

 そして変わらない事がもう一つ。

 私がこの話を他人にする術がないという事だ。そもそも話せたところで信じてもらえそうもないとんでも話な訳だし。


「お嬢様」


 手紙を読み終えたらしいラフィネが私を見て言った。その表情は少し困惑の色がある。


「デクシア侯爵様に魔法の事をお伺いしていまして、そのお返事が送られてきたのですが……」


 そう前置きして、ラフィネも私がレフレッシ様からの手紙に書いてあった事とほぼ同じ内容を説明してくれた。話し終えた後、ラフィネは口元に手を当てて考え込むような表情をする。


「他の国では多少知られているこの魔法、どうしてこの国では噂程度にしか知られていないのでしょう……?」


 あぁ、そういえば以前その話をしたときのアミティも「御伽話だと思っていた悪魔が実在するかもしれない」「馬鹿馬鹿しいお話だと思うが、悪魔が実在するのであれば、話せなくなる呪いや魔法なども実在するのでは」程度の知識しかなかったっけ。

 この国、確かに魔法や魔物の知識に乏しい気がする。私も多分、あの女神に会っていなかったら精神魔法なんて知る機会なかっただろうし。もしかしたら、私が知っているあのちょっと使いにくい魔法ももっとすごい使い方とか、呪文いらずで使えるものがあるのかもしれない。


「しかし、天上の民が使う魔法ですか……。もし仮に誰かが何かの拍子にそんな魔法を手に入れたら、お嬢様以外にも喋れなくなる人が続出しているでしょうし、かと言って本当に天使がお嬢様にそんなひどい事を……」


 されたんだよ! 天使じゃなくて女神だからもっとタチ悪いけど! いや私が女神だと思ってただけで実は女神じゃないオチもあるかもしれないけど! ビンゴなんだラフィネ! 気づいて!


「……いえ、お嬢様は何も悪い事をしていないのにそんな天罰みたいな事が起こるはずありませんよね」


 違うんだって! 正解してるの! ラフィネ!

 ダバダバする私。それに気づいたラフィネが不思議そうに首を傾げる。


「え? お嬢様、まさか……本当に?」


 そう! イエス! 必死に頷く私。必死の形相の私を見て困惑するラフィネ。すごい引かれている気がするが、死活問題なのだ。せっかく気づいてもらえる最大のチャンスをここで逃すわけにはいかない。


「も、もし仮に、本当にお嬢様が天使に魔法をかけられたのでしたら……私は神様を信仰するのを辞めなければなりませんね……。お嬢様にそんなひどい事をする者を従えてる訳ですもの」


 ちょっとだいぶズレた返答が返ってきたが、まあ伝わったようなので結果オーライ……ということにしておこう。うんうんと確認するように頷くラフィネが再び口を開く。


「ちょっと信じられないお話ではありますが、お嬢様が天使に魔法をかけられたのだと仰るならば、私はお嬢様を信じます。……いつ、どうやって魔法をかけられたのかを聞けないのは残念ですが、私は全力でお嬢様が元に戻れるよう頑張らせて頂きます」


 よかった。理解者ができた。きっとこれは大きな前進だ。ラフィネが私の代わりに説明してくれれば、他の人にも伝える事が出来る……信じてもらえるかはさて置いてだけども。

 ありがとうレフレッシ様。ありがとうデクシア侯爵様。知識がある人がいたおかげで私は理解者を得る事ができました。後はデクシア侯爵家にお邪魔したときにラフィネに説明してもらえば……。


「……恐らく、私がここで旦那様などにこのお話をしても信じては頂けないでしょうから、暫くは内密にさせて頂きますね。私もお嬢様が相手じゃなければきっと信じていなかったですし」


 ……まあ、そうか……。ラフィネがちょっと私に肩入れし過ぎているところがあるからこそのこの結果だよな。そうだよな。

 うーん、信じてもらえる方法なぁ……。せめて私が女神に出会った時の話でも出来ればなぁ。あれこそぶっ飛んでて訳のわからない話だけど、あれが紛れもない真実だし。

 理解者ができて私としては跳ね回りたいくらいの進歩だけど、解決には程遠いのは事実だし、私とラフィネが揃って頭がどうにかしちゃったと思われても仕方ない状況ではあるわけで。私の当面の目標が意思疎通する手段なのは変わらない。

 どうにかして文字が書けなくても喋れなくても文章が作れないだろうか。などと思考を巡らせるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ