プロローグ
とても長い時間暗闇の中にいた気がする。
闇の中をさ迷い歩いて、眼前に白い光が見えた。
思い切り駆け出して、光の先を抜けた。
抜けた先に、女神がいた。いや、女神と断定するには早いかもしれない。でも、女神としか言いようがない見た目をしていた。
「あら、こんにちわ? ……ええと、貴方は誰かしら?」
「私? ええと、私は……」
聞かれて、私は自分の素性を思い返す。
私はラリア。ラリア・バヴァ・ロクァース。ロクァース家の26代当主の娘。歳は10。確か、ここに来る前は自分の屋敷に居て、風邪をひいて高熱を出して……寝込んでいた筈。
あれ、じゃあもしかして。私は死んでしまったのだろうか。
「私はラリアと申します。……ええと、それで、私はどうしてここにいるのですか?」
「そう、ラリアちゃんと言うのね。ええ、ええ。初めまして。私はエルバ。見ての通り天のヒトよ」
そこまで言って、エルバと名乗る女神? は何処からともなく本を手に取り、ぱらぱらとページをめくり始める。
「あの、何を?」
「ちょっと待ってね?」
「はぁ」
エルバはうーんとかえーとか言いながら本のページをめくり続けている。なんだろう、これは。嫌な予感がする。
それら暫くして、エルバがあっと声を上げた。
「ごめんなさいね。何かの手違いで貴方をここに呼んでしまったみたい。大丈夫、貴方はまだポックリ逝ってないわ」
ポックリって。……ってことは、やっぱりここは死んだ人が来るところじゃないの!
「まあ、でも手違いで良かったです。私、まだ死にたくありませんもの」
「それはもう。本当に。お詫びに何かしなくてはなりませんね」
「お詫び、ですか?」
そりゃまあ、間違いで天国まで連れて来られたんだからお詫びだってもらっていいはず。うん、きっとそう。
「お詫びに貴方の前世の記憶を呼び起こしてあげる。ここでの記憶も本当は消さなきゃいけないんだけど、それも消さないでおいてあげるわ」
「はあ……」
別に欲しくない……って言ったら怒られるだろうか。
と、私が思っているのをよそに、エルバは話を続ける。何だか楽しそうなのが妙に鼻につく。こんなのに人類の命が握られてるのか……。
「あ、でも。前世の事とか私の事とか喋られたら困っちゃうわ」
ちょっと待て。勝手に思い出させといて喋られたら困るとはどういう事だ。
「そうだわ、貴方を喋れなくすれば問題ないわよね?」
「は?」
「うんうん。我ながらいい発想だわ。じゃあ、それで」
「じゃあ、それで。じゃないです! ……って、ちょ、ま……」
話を聞かない女神の笑顔を最後に、私の意識はブラックアウトした。