スーパーマン
「出征希望者は大分集まった。守るものは学園だけではない。友も恋人も家族も。」
学園横浜は動き出していた。かの暴虐無人な本校を許すまじと。宣伝やブロガパンダを行った訳でもなく、個人同士の関係が大きなうねりを呼び込んでいる。
「横浜防衛と本校解放のために割り振ってもお釣りがくる。空間移動系超能力者を軸にした解放作戦は3日以内に開始出来るだろう。」
防衛委員長、熊原は試算を終えた。休戦協定を結ぶ必要性がない程に質も量も兼ね揃えた生徒たちが、休戦協定を結んでも本校へ特攻をかけるように興奮している。未だかつてないような事態に困惑しながらも、残存生徒会は職務を全うする考えだ。
「そして!肝心なのは、横浜単独での作戦履行が可能になったことだ。他の学園が中立を守ればの話だがな。」
横浜にとって1番の同盟相手だった第2校が壊滅的被害を受け、現在本校による占領に見舞われている今、横浜単独での作戦可能状態は望ましいものだった。美咲が現実逃避をするように眠っている間にも、学園横浜の状態は動き続けている。
「…なぁ、会長は少し駄目じゃあないのか?」
リーコンが単純な疑問を投げかける。事実として彼女の行動が停止してから、横浜はどんどん有利になっている。単純な事だった。
「会長の資質を問うのはこの際今じゃなくてもいい。それに…極論にはなるが、俺たち官僚がしっかりしてれば皇帝は神輿担がれているだけでいいんだよ。シンボルとしてな。強い女として売ってけば、それは横浜が有望株獲得にも繋がる…かもしれない。」
「官僚が腐敗したら終わりってわけだ。ま、そんなことを言っている場合でもないしな。」
リーコンと熊原と大智の3人が実質的に生徒会に残存している役員と言っても過言ではない。他の役員は第2校で捕虜となっているか、この難局の前に匙を投げてどこかに消えたかのどちらかだ。そして、大智もリーコンもイリイチが復活すれば彼の意向なしには行動出来ない。イリイチが昏睡状態だったり、記憶障害を起こしてイリーナと2人の世界に行っている間にも、彼の遺したものは大きかった。
「あのロシア人のことだが…。即実戦導入可能なのか?」
「行ける。行けるさ。行けるとも。あいつは超人だかんな。スーパーマンだ。シックス・センスの強さよりも俺はあいつの不死身さに驚いているよ。」
太鼓判を押したリーコンは、彼の異常なまでの生命力に感嘆していた。施術が終わるのが向こう3時間後。この程度で死ぬわけがないと信仰の域に入っている。
「今頃大智が首長くして待ってるだろうな。イリーナと一緒にな。」
スーパーマンの復活劇を待っている者が2人。どちらも彼の人間味を知っているつもりだ。
「イリイチはこれからどうなるの?」
「どうなるか…。脳の半分を人工にするからな。まぁ、イリーナも知っての通り、ヤツは不死身だ。大丈夫さ。」
イリーナのシックス・センスは兄の史上最大の危機に進化を遂げていた。相手の思考回路が頭に流れ込んで来るようになった少女は、兄とそう身長の変わらない日本人が嘘をついて居ないことを理解していた。
「……。」
イリーナはなんとも感傷に浸っているようだった。生まれて初めて自分と限りなく近い能力と思考を持った人間と、心から触れ合えた時間はもう終わりであることを考えるとあとげない少女を少し大人にするには十分だった。
「…まだ大人になんかなりたくない。」
「みんなそう思ってるさ。なに、世の中子どもみたいな大人ばっかだ。それに比べれば…。」
イリーナは大人さ。と、言おうとした瞬間に施術は完了した。第六感は復活しようとしている。




