虚空夜叉
「んだ、この馬鹿はよぉ?」
本校との対決が始まり、学園横浜は一瞬にして抵抗者たちによって占拠される危機が迫ってきている。横浜生徒会役員たちは、凡そ把握出来ていた東京派の裏切り者どもを拘束したが、それでも拘束しきれていない裏切り者は多数。彼らは武功を挙げるために、学園横浜最高戦力の1人である柴田公正を付け狙っていた。
「…おいおい、舐められたもんだなぁ!鈴木やイリイチは無理でも俺なら袋にできると?そういうことかぁ?」
「そういうことだなぁ!鈴木翔もあの露助もどこに居るのか誰も掴めていねぇ。そこでだ!この緊急事態をガン無視して1人で出歩く馬鹿を叩こうって訳なのよ!」
公正は大智に会うために外に出ていた。戒厳状態であっても、そもそも横浜最強格の彼にはそう関係のあることではない。そして何よりも、袋にして潰そうとする彼らの魂胆に哀れさを覚えていた。深い溜息と共に啖呵を切る。
「上等じゃあねぇか。学園横浜の出世主義者どもの手助けするようで気に食わねぇがよ、相手してやんよ!」
超能力者というものをよりわかりやすくするにはどうすべきなのか。見た目が全く変わらない超能力はとにかく、本来超能力者というものの見た目というのは大事なことだった。太平洋戦争末期の日本軍が導入しようとしていた超能力者部隊「夜叉」にもその性質は出ている。普通の人間の兵士とは違う存在として、わざとらしく羽根を生やして、わざとらしく空を飛ぶ。皮肉を込められたように「竹槍」で相手の胴体を貫く。シックス・センス程ではないが、相手の居場所をある程度把握して、疲れ知らずに痛み知らずで相手を殲滅する。
理想の兵士こそが超能力者であったのだ。そしてその理念は現代型超能力者にも色濃く受け継がれている。
「ま、よくある羽根だ。」
柴田公正は超能力者というものの理念に最も近い存在だった。圧倒的な力と圧倒的な体力に圧倒的な耐久力。美しさすら感じる白い羽根に、それを覆すような泥臭い闘い方。強い矛盾を帯びた彼の超能力者としての超能力名は。
「学園横浜唯一の虚空夜叉様だ。よろしく。」
挨拶代わりの顔面への殴りは、1人の生徒の顔の形を大きく変える。空中に彼が飛んで行ったのなら、白い羽根から圧倒的な量と質を持った打撃にも斬撃にも似た攻撃が降ってくる。
「っくそがぁ!」
1人がそれから逃れるために、空へ舞う。公正を捉えられる距離を詰めて、ライフルによる乱射によって公正を止めようとする。
「効かねぇな。ったくよ、超能力者なんだろ?しっかりしろよォ!」
一瞬だった。公正以外の誰もが脳内で演算しきれていない瞬間に、彼の溝におおよそ人間の放った拳骨とは思えないほどの穴が開く。
「Ijpたtd!」
悲鳴にもならない悲鳴がこだました。それを見たレジスタンスたちは、恐怖で全くの行動が出来なくなる。ありとあらゆる超能力行使による公正への攻撃が止んだのを確認し、虚空夜叉は元の人間に戻っていく。
「…抵抗しないなら殺り合う意味もねェ。本校のカスどもに伝えとけ。俺たちは弱すぎて話になりませんでしたってな…。」
毒づいてはいるが、公正は相手の生命を奪うことに執着していないことを示す証拠にもなる。事実、彼の攻撃をまともに受けた生徒たちは、当分は活動出来ないだろうが死に至る程ではない。
「分かったらそこに倒れてる馬鹿を病院に連れて行ってやれや!横浜の連中はみんな俺見てぇに優しくはねぇぞ?なぁ?」
まるで脅すかのように彼らの主犯格の目を睨みながら忠告をこなす。その恐ろしい目付きに怯えた彼らを見て、満足したのか公正は何処かに去っていた。




