本校の意地
「外向的にしてやられたりだな!クソめ!」
アーサーは自分がやろうとしていたことを相手にやられるという事態に憤りを隠せない。美咲や三島、リーコンといった自分から見れば大したことのないガキにしてやられたのだ。
「…結局、どうするんだ。横浜は今すぐにでも選りすぐりの超能力者を第2校に送るだろう。横浜にいるスパイに蜂起させても、こちらが落とされれば意味が無い…。恥を飲んで、イリイチとイリーナの2人を諦めるか、行くところまで行くか…。時間の喪失は機会の喪失。さぁ、判断を。アーサー!」
憤っているアーサーに比べれば、それを補佐する阿部の頭には血は登っていないように見える。落ち着いた物腰で、重要な判断を確かめる。
「…本校の意地を魅せてやる。所詮は外様軍団の横浜と、所詮は2番目の学園と、所詮は関西で偉そうに君臨している裸の王様だ。学園本校、動員可能人数3000人で踏み潰してやる!」
アーサーが吐き捨てた他の学園の現状も一理ある。学園横浜は生え抜きが弱い。学園という異常な空間に慣れていない外様だらけの学園だ。
学園東京第2校は本校に対する意地と、学園にあるまじきファミリー気質なだけの学園だ。敵対心が強く、本校と目と鼻の先にある第2校は言い換えれば、1番落としやすいのだ。学園兵庫は、そもそもまともに参戦しない可能性すらある。東京が完全に負けた訳では無いのだ。
「超能力者同士の争いは数に意味は無い。巨人が戦場を支配する。第2校は向かってくるだろうが、横浜の主戦力であるイリイチと鈴木翔を厭戦空気に持ち込めば、横浜は何も出来ずに上層部が更迭されるだけだ。」
「イリイチは全く動いていない。あの快楽殺人鬼が何もせずに黙っているってだけで不気味だな。翔は…あのクソアマが動かせば有り得そうだが、結局上の連中の権力争いってことを知れば何もしないだろうな。」
アーサーは激昴していた今までの感情を脇に置いて、学園横浜に在籍していた時のデータを見ている。内務委員を動かして得られた情報によれば、現在学園横浜で「イリイチ」「鈴木翔」に匹敵する正真の化け物は、甘めに見積っても2人ほどだ。
「横浜には過ぎたるものが4人いる。第六感、イリイチ。万物破壊、鈴木翔。そして…超能力者開発第7世代最高傑作、虚空夜叉、柴田公正。」
「後1人はだれで?」
「もし、覚醒すればもう1人の第六感として、イリイチを凌ぐであろう才能の塊、イリーナだ!だから本校が指導的地位に居るために必要なのさ!」
本校の情報は確かなものだった。PKDIを4に指定された生徒のうち、3名の能力と実力を完全に網羅していた。横浜が本校の化け物を網羅出来ていないのとは対照的だ。
「だがな…イリーナのシックス・センスは開花していない。危険に晒されたことは何度とあるが、何処かの兄貴のせいで覚醒しきれていないんだよ。その分開花すれば、誰も手をつけられない。幼い少女の皮を被った大した豪傑だ。」
情報委員会から、横浜と第2校が動き始めるであろう日にちと時刻が予測されアーサーと阿部の枢軸に渡された。12月8日未明に、電撃戦で本校を攻め落とす作戦を始動することも彼らの手の内に収まったのだ。
「…阿部、徴兵開始だ。」
「御意。」
意地と誇りをかけ、横浜と東京によるグレート・ゲームが火蓋を切ろうとしている。




