The Night Comes Down
世の中金が正義なのか。正確に言えば金を持っている奴が正義なのか。人類の歴史は金の歴史でもある。金という概念が出来てから人々は、自らが生み出したものに踊らされてきた。資本家は労働者を搾取し、労働者たちは時には反乱を起こし、それで国の指導者が変わったことも多々あった。指導者達はいつかは支配者に変わり、庶民はまたそれを打倒するために、暴力を使う。それはいつの時代にも同じことであった。少年イリイチは、そういう意味では金が正義であることの信仰者であり、それでいて権化でもあった。金を積まれれば、誰にも平等に接する。その結果、普段の彼というものはどこにも見えなくなりそして消えてしまった。本人はそれすらも関係ないのかもしれないが。
暗殺というには大雑把で、殺戮というには縮こまっている。そんな光景が広がっていた。
シックスセンスという能力は一体一の状況にこそ真価を発揮する。その点で、1学年上の超能力者がターゲット含め3名。まとめて消してしまうには、実力不足ではあった。
等倍スコープを覗きながらイリイチはややイラつき気味だった。あらゆる手段を計算したが、やはりターゲットのみダウンという道は見つからないようだった。
仲良し3人。ある日突然失踪。この学校ではしばしば見られることだが、残りの2人の処理は自腹でする羽目になる。あまりいい気はしない事態だ。
「大智、あの二人を時間稼ぎ出来るか?1分間でいい。」
こっちはこっちで極限状態なのに無理難題を言う。
「ナンパでも、喧嘩を売るでもなんでもいい。時間は必ず待たねぇ。いや、まて。」
目付きがより豹変する。
「5秒後、発射。命中確定。15秒後、残りを無力化。」
未来が見えれば引き金も軽くなる。ほんの少しの間をおいて、凶弾は着弾した。
あまりにも急に友達が即死する。冷静さは保てない。慌てふためいている間に、綺麗に足と腕に着弾させる。その場で動けなくなっているのをしばし眺め、ショックから気絶したのを確認。そこからは流れ作業だった。
「俺は死体処理が1番苦手だ。」
その言葉が示すとおり、大量の血と脳汁が地面にちらばっている。失禁もしているのか、想像以上に惨い現状だ。
こちらが吐きそうになっていると、手馴れた手つきで死体をバラしていくイリイチ。それなりに顔もいい子なだけに余計に惨さが増す。
死体を袋に詰めると、またどこから見つけたのかまるで人気のない場所で妙な液体を垂らし始める。
「ドロドロに溶けちまうさ。超能力者だろうが、こうなればどうしようもない。」
そのまま袋全体にかかると、そのまま寮まで戻り始めるのだった。
「感想はあるか?焼肉食いてぇか?」
あえて、妙な質問をし始める。俺は完全なる共犯だ。仮にバレたら、仮にあの二人が俺たちを認知していたら、恐怖しかない。
「お前はこう思うだろうな。絶対にバレたくないと。良心なんてこれぽっちも持っちゃいない。」
「だけどな。ひとつ言っておく。今までのことは全て忘れろ。このまま進めば、このきな臭い学校だったらよ、こんな仕事、山ほどやらされるだろう。だから、今までの哲学は全て捨てろ。」
力なく頷いている様子をみて、満足したような表情で微笑むのだった。