回収班
「山崎康太は破滅したな。そしてイリイチも虫の息。イリーナは戦闘方法を知らない。回収する要員が必要だ。会長殿。」
生徒会が改選して見事生徒会長になった美咲は、いま内務委員長であるリーコンから回収要員の要請を受けていた。
「そんなこと言ったって…。あんなのほっといても大丈夫じゃない?」
美咲はあまりイリイチに対していい感情を持っていない。これは他の生徒にも言えることだが。
「会長殿にもわかりやすく言ってやろうか?イリイチはともかくイリーナはこちらのジョーカーだ。東京との外交問題に発展しかねない爆弾でもある。今にも東京からの刺客や横浜の裏切り者がイリイチとイリーナを消しにかかるぞ。」
嫌々という表情で、回収のための要員を呼び出すことにしている美咲。その時に翔はたまたまやってきた。
「美咲ー!また罰金取られたぞ。改正してくれるんじゃなかったのかよ。」
喫煙所以外で喫煙した場合学園から罰金を盗られる。それを改正するために生徒会長として美咲を推薦した翔は不満げだった。
「うるさい。未成年の癖して煙草吸ってるのが悪いんでしょ。…ねぇ、こいつを回収要員に回すことでいい?」
リーコンは呆気に取られたような顔つきになるが、直ぐに了承の答えを送る。
「第1位様が来るなら千人力だ。翔、行くぞ。」
「は?どこに?」
答えることなく腕を引っ張られてリーコンに連れていかれていく。美咲は溜息をつくと、また仕事を再開した。
「どこに行くんすか。どこに。」
「イリイチ回収だ。東京だな。俺とお前で瀕死のロシア人を救いに行くんだよ。空間移動系の能力者を都合してもらえない時点であいつは見捨てられているがな。」
空間移動の超能力者が居ないということは地道に東京へ車で向かうという事だ。生徒会権限で運転手と車を用意させる。
「ま、俺たちはあいつを見捨てねぇからな。だよな?翔くん?」
あからさまに嫌味のような口調で問いかけられる。翔からすればどうでもいいことだが、暇つぶしにはなるだろうと向かうことを了承する。
「そうだな。親友見捨てるぐらいなら男辞めんぜ!」
馬鹿は御しやすいと言わんばかりにリーコンはほくそ笑む。護衛としてはこれ以上ない生徒を連れて東京へと向かう。
「だがよ。あのイリイチが瀕死なんて考えられねぇな。笑って踏み潰すって豪語しそうな悪役の癖してよォ。」
「意外と繊細なのさ。それに悪役と言ったらお前の方が当てはまるだろ。なんだよ破壊って。そのうち世界に絶望したとかいって魔王になるなよ?」
「なんねぇよ。そんな陳腐な役は俺には似合わねぇ。」
横浜まで東京へ。何故かリムジンにて向かう。シャンパンを開けてパーティームードに入っていた。
「学園1位おめでとう!!」
「あざーーす!!」
なんとも堕落した2人だ。運転手からすれば、この2人が開発指数段階2の1位と開発指数段階4の1位というのは信じ難い。ただの馬鹿にしか見えないのだ。
そうこうして呑んでいると、当たり前のように目の前から超能力者が現れた。
リーコンと翔の目付きが変わる。運転が停止し超能力を纏った弓矢が飛んでくると、まず翔が行動を起こした。
「人が気持ちよく呑んでいる邪魔すんじゃねぇよ!!!」
暴風が吹き上げる。それは超能力者どころか、人気の無い道路全体を吹き飛ばした。それがほんの5秒ほどだ。
「さ、運転続けて下さいな。よっしゃ、リーコン!呑むぞぉ!」
「うぇぇぇぇい!!」
狂ってると言う言葉が喉元まで付き上がるが、なんとか我慢して運転を続ける。リーコンの示した位置に向かって。
「もう時期着くな。…ん。反応ありだ。イリイチ、イリーナ。そして東京からの刺客さん。」
リーコンはマーカーを付ける。何処からか取り出したスナイパーライフルで狙撃をし始めた。車の上窓を開けて。
「ターゲットダウン。これがキルレ4の実力だァ!」
「いいねぇ!いいねぇ!最っ高だよリーコン!!」
この2人の前では超能力者もただのゴミだ。もはや相手の超能力者に同情しつつある運転手はそれでも目的地に向かって走り続ける。
「……運転手さん。ここで止めて待ってて下さい。」
翔は酔いが覚めたかのように真剣な口調で停止を要請する。車は止まり、そして目の前には超能力者が立っていることを知らせる。
「わかった…。」
リーコンと運転手は残りながら経過を見守る。




