布石
雷鳴が鳴り響く。イリイチの世界は壊れて崩れていく。シックス・センスも関係なくただただ無慈悲な電磁による多数暴力はしばらく鳴いていた。
「……終わりだ。」
康太はある所に連絡をしようとしていた。シックス・センス使い2人を確保したとなれば、それは大金星だ。勝利の余韻に浸る前に結果をおわらせようとしている。
「イリーナがいねぇな。だがまぁいい、イリイチをおびき出すための罠という義務を果たした。…!!」
雷撃によって全身火傷状態のイリイチが立ちあがった。壁を支えにして何とか立っているだけだが。
「まだ終わっちゃいない!」
その様子をみて呆れた様子の康太は同時に完全なトドメを指すために布石を打ち始める。
「終わっちゃいない?もうおわってんだよ。全身火傷状態で立っているのがやっと。軽く殴ればそれだけで倒れるような状態で終わっていないとは、お前さ、頭おかしいんじゃねぇの?」
康太の言ったことは正論だ。誰がどう見てもイリイチは終わっている。制服が小汚い布切れに変わって、白い肌は赤い血と火傷に塗れている。それでも余裕たっぷりににやけながらイリイチは立っている。
「諦めが悪いのが俺の取り柄だからな…!ガタガタ御託並べてねぇで俺を終わらせてみろよ…!!」
「強がりにしては自信に溢れているな。ま、仕方がない。楽にしてやるよ。」
イリイチは煙草を咥え、Zippoで火を付ける。紫煙が巻きあがると、またもや余裕に溢れた顔で笑った。
「第六感はよ、未来予知も出来るんだ。予告しておこう。お前は倒れる。造作もなく無様に倒れる。もう布石は済んでいる。さぁ、最期の闘争をしようか…!」
この自信はどこから来ているのか。康太は少し迷いを見せる。死にかけの露助1人を戦闘不能にすることなんて造作もない。近づいて殴れば終わり、電磁波1つ喰らわせれば終わり、ほっとけば勝手に倒れて終わり。だが、イリイチの見せる余裕の答えにはならない。そんなことは彼が1番分かっているからだ。
イリイチは銃を構える。左手に力が入らないからか、右手のみで康太の頭に向けて照準を合わせる。身体は小刻みに震え、今にも気絶しそうな身体と、好戦的な目付きは彼がまだ諦めてはいないことを示唆させる。
「諦めは打破するためのものだ。最高の一撃を叩き込んでこい。そうじゃねぇと、お前は負ける…!」
「言われなくともそのつもりだ。」
電気量が康太の周りに集まっていく。彼の周りを漂う電気は彼の右手に集結した。発射までもう5秒とない。
「カウントダウンだ。5,4,3…。」
「「あばよ。間抜け!」」
同時に同じ言葉が出てきた。それと同時期に電磁砲がイリイチに向かって発射されたはずだった。
「っ…!」
康太は喋ることも出来ないほどの電磁砲を身体に喰らった。何が起きたのか分からないという表情で、身体中に走る激痛にのたうち回る。
「…安い煽りに乗ってくれて助かった。最強の技じゃないとくたばらねぇと思ったからな。ネタばらししてやろうか?」
イリイチは煙を出しながら、悦に浸るような笑顔で頭を指指す。
「脳波改竄、お前みたいな化け物の脳内式は非常に単純にできている。だから1部分を無効化するのが精一杯だった。だから電磁波を避けきれずに直撃したんだ。だがよ、必殺技は流石にそれなりの長さだったな?その必殺技の式を受信して、自分に全て当たるように送信したんだよ。最高の技を自分で喰らった気分はどうだ?激痛で立ち上がれないだろ?」
1歩ずつ距離を詰めていく。拳銃には残弾が1発。必中させるのは彼の頭。冷徹な殺し屋としてのイリイチに下らない迷いは、ない。
「色々と楽しませてもらったがよ、やっぱ俺の哲学はお前を消すという結論になったわ。お前がどんな陰謀に関わってるかは知らねぇが、俺の邪魔をする奴を生かしておくほど聖人でもねぇんだわぁ!」
動くことを一切やめた康太の頭を撃ち抜くように照準を合わせる。
「じゃあな。」
破裂音が響き渡る。だが、そこにいたのは肉塊ではなく、ただのアスファルトだった。舌打ちが響く。
「まだ体力があったのか…。電機速度で逃げれば俺には追えねぇな。」
そうして闘いが終わると、イリイチはその場に倒れ込んだ。
「…身体が動かねぇ。」
この状態はつい最近にもあった。その時はシックス・センスの暴走によって彼の意思が消滅する寸前の時のことだ。そして、今もこうして少女はイリイチのために目の前に居るのだ。
「イリーナか。大丈夫だったか?」
「うん。」
無邪気に笑う少女の顔を見てイリイチも安らいだかのような顔つきで気絶したのであった。




