郎党
椅子取りゲームは始まった。まずは手を組むところから。何も全員が全員生徒会会長を狙っている訳では無い。会員を狙うものがいれば委員長を狙う者もいる。そして生徒会会長を狙うものもいるだけだ。会長の座は猛者が狙っている以上は、なにも自殺行為をする必要性はない。猛者は猛者同士で殺し合えばいい。そんな猛者たちは、自らの自陣を強くするために生徒たちをスカウトする。猛者そのものが王将で他は駒。学園そのものを表すのにこれ以上ない言葉だ。強きものは弱きものに何をしようと関係がない。
教室の一室にて。
「大智くんを会長にしようの会だ。メンバーは俺とリーコンと桑原かな。まぁ、悪くは無い。看板だけで逃げ出すヤツらも多いだろう。」
「俺たちは上から眺めて美味しいところだけを頂けばいい。泥臭い闘いなんて野蛮民族のすることさ。」
イリイチとリーコンの意思は固まっている。大智の順位は彼らの中では1番低いが1番都合がいい。イリイチは立候補すらできない。リーコンは内務委員長に留まれればいい。未来は美咲との無用の闘いは避けたい。そうなると大智は都合がいい。椅子取りゲームの勝者を作り上げるために、外交力と看板だけで相手を屈服させる方針だ。
「戦争は最終手段だ。手段と目的は混合しないのが勝ちへの近道だからな。」
「リーコンの言う通りだ。大智、お前は闘いもせずに勝つ。昔言ったよな。俺についてくれば美味しい思いが出来ると。それを遂行してやるよ。」
「わかった。わかった。よォくわかった。でもよォ、俺たちの看板で屈服しねぇヤツらも少なからずいるよな?」
彼の言っていることは当たっている。美咲のグループはまず戦争状態になると脅しても意味が無い。イリイチは翔と、未来は美咲と、リーコンと大智は櫻と紗友希とぶつかるからだ。完全に拮抗状態な以上はどちらかが妥協しないと終わらない。
「ったく、仕方がねぇよ。要するにだ。あいつらが屈服すれば俺たちの勝ち。屈服しねぇと俺たちの負け。わかりやすいな。」
「まぁそういうことになるな。全面戦争を攻略出来るほど俺たちは強くはない。負ける可能性がある以上は戦争は避けないといけない。」
戦争はやる前から結果が決まっている。イリイチのシックス・センスが発動するかどうかわからない以上は、翔と闘うのは厳しいものがある。
「今から未来をこっちに来させる。作戦会議は全員でやらないとな。」
「じゃあイリーナも呼ぶか。ジョーカーは何枚あってもいいものだ。」
2人の強者を呼び寄せる。リーコンは裏で手を引いて操るのが好きな男であり、イリイチも似たような性格だ。2人共呼んでからすぐに駆けつけた。
「リーコン!大智くんを会長にするんだって?協力するよ!」
「よくわかんないけど来たよ。イリイチ。」
イリーナと未来は初お披露目だ。シックス・センスという能力上、性格を強く感じ取れるイリーナにとって未来という存在は不安材料ではあったが、それどころか気に入った様子だ。これはいい。
「2人共少し話したのか。まぁいい。これからの方針を決めよう。こういうのは明瞭にしとかないと後々馬鹿を見る。」
ホワイトボードに細かく書き込んでいく。リーコンはこういう手合いは心得ているのだ。
「まず、我々の話だ。我々は5人。イリイチに大智に未来にイリーナちゃんに俺。そして誰を担ぎ上げるかと言うと、知っての通り大智だ。彼に会長になってもらう。理由は都合がいいからだ。他の3人は知っての通り、各人理由がある。イリーナちゃんは単純に年齢が足りない。だから大智だ。異論はないな。」
「ない。」
「よし、次だ。大智を会長にするために何が必要か。生徒会の改選は投票によって決まる。だが、これは建前だ。投票というのは茶番であって、大事なのは周りを納得させることだ。俺たちが納得をお願いしたら、大半の連中は快諾してくれるだろう。そう、大半はな。」
ホワイトボードに書かれた名前と貼られた写真はよく知った奴らだった。
「こいつら、現在風紀委員長である高橋を初めとした連中だ。こいつらは別に納得をお願いしたところで納得するような素直な奴らではない。確実に古典的な解決方法になるだろう。だからこそ、こいつらをねじ曲げるのが主点になる。そして…。」
また写真と名前を描き始める。この2人もよく知った奴らだ。
「義経先輩と武蔵先輩だ。何故こいつらが重要かって?それはこいつらの推薦を得られれば、生徒会会長になるのはほぼ確定事項になるからだ。義経先輩は知っての通り、学園序列1位だ。そして武蔵先輩も序列2位だ。強者がルールを作り上げる以上はこいつらも重要になるのさ。」
大智が手を上げる。リーコンは大智を指さした。
「ほかの連中は本当に無視していいのか?理論的に考えればイリイチと桑原を抑えているこちらが有利なのはわかる。でも理論だけで人間は動かねぇぞ。」
「…それはなんとも言えないな。窮鼠猫を噛むと言うしな。俺たちがお願いしたら逆襲を喰らうかも知れない。だがな、鼠は鼠だ。トムとジェリーじゃあないんだから、猫には適わないものさ。他になにか。」
特に異論もなく終わった。実際問題、イリイチといったチート野郎と桑原といった看板とリーコンという頭脳がある彼らの郎党は強いのだ。実権を掌握するために悪巧みをする必要もないほどに、ただただ強い。
「心配はいらねぇさ。」
イリイチの言葉は強がりでもなくそのままの意味だった。




