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Keep Yourself Alive 第六感の場合  作者: 東山ルイ
もう1人の第六感。
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無用の長物

約25,000,000,000円。血しかついていない手によって稼いだイリイチの資産額。裏切り騙し操りそして殺したことで得た金は彼にとって重要な自分の価値だ。彼は金に対しては誠実だ。シックス・センスという他人と自分の意思を曖昧にする能力を持つ彼は、信用というものは金額であり、1ルーブルでも積んだ方を勝たせることには自信がある。

「無用の長物でもあるがな。」

東京。日本に来てまだ半年。しかも現世とは隔離されている学園にほとんど在籍しているため、実質的に始めて日本に来たと言えるだろう。

「最高級ホテルすらこの狭さか。本当にうさぎ小屋だな。そのくせして毎日50万弱とはなんたる商売よ。」

愚痴を吐きつつ、紫煙の中に埋もれる。いつから吸っているか分からない煙草ももう慣れたものだ。一切の無駄なく、火をつけ、肺に入れて味わう。

「1箱500円越えとはブルジョワの下劣な趣味だな。」

紙巻き煙草の火を消し、葉巻に火をつける。

「まぁ、下劣の極みみたいな俺が言える義理ではないがな。」

かの独裁者スターリンは、ワインを飲みながらかつての政敵の写真を見るのを嗜んでいたというが、イリイチも同じようなことをしている。

「資本主義に追われて、金を稼ぐために豚になり、挙句の果てに家族諸共殺された、哀れな豚野郎。そんな哀れな男の哀れな声は、今でも俺の中で生きている。殺し屋の嗜みだ。」

標的の最期を見れるのはこの仕事の良いところだ。命乞いする阿呆もいれば、部下や家族を犠牲にしてでも生き延びようとする間抜けもいる。黙って往生する潔い人間なんて少ないのだ。

「哀れで惨めで、そして美しい。人の人生を奪うということは素晴らしいことだな。」

葉巻は1本吸い終わるまで1時間弱はかかる。ゆったりとした綺麗な煙は無意味な感傷を打ち消すには相性は良い。

長い夜はやがて終わる。気がついた時には寝ていたようだ。時間を見たならば、それは良い朝になると告げる。

「拳銃がないのは変な気持ちだな。まぁいい。いざとなれば東京本校からかっぱらってこよう。」

東京本校。学園12校のうちの本校にあたる。最高司令部でもあり、基本的には東京本校が指導的優位性を持つ。

モーニングが程よいタイミングで運ばれてくる。殺気がないのを確認し、中に入れ、それを食らいつく。それなりの量と質の割には直ぐに食べ終わる。職業病とはこういうことを言うのかもしれないと自嘲する。

そして暫くテレビでも眺めていると電話が鳴る。

「よぉ!元気か。イリイチ!」

「お前の馬鹿みてぇな声を聞いたらすこし元気になったよ。ジダーノフ。」

「日本でも礼儀の良さは変わらねぇみたいだな。俺の居場所は分かるな?昔話でもしようぜ。」

「わかった。すぐいく。」

ジダーノフ。ロシア時代の旧友のひとりだ。壊滅状態に陥った俺の組織の数少ない生き残りで、恐らくは今も殺し屋をやっているはずだ。

下に降り、タクシーを拾う。この地点からそう遠くはない。4kmぐらいだろう。

「○×喫茶店まで。」

シートベルトを閉め、外の風景でも眺めれば、日本という国はまとまりがないと感じる。東京だけかもしれないが、看板や電柱の多さ、なによりも人の多さに纏まりがないように思える。

だが、治安は良いと感じた。暴走する車もないし、銃声音も聞こえない。なにより殺気があまり感じられない。人々は他人に対して関心を持っていない様子だ。

そんなくだらないことを考えているうちに目的地に到着した。タクシーの運転手が実はギャングでしたということもなく、1万円を渡し、釣りは要らないといい、自動ドアが開く。

○×喫茶店。そもそもここが何区なのか何市かもすら分からない。スマホがある以上は問題もないが、異国の中でもより入り組んだ都市には少々不安も覚える。

ジダーノフは直ぐにわかった。日本人だらけの喫茶店で、全身刺青の露助を探すことは非常に容易なことだ。

「よぉ、久しぶりに馬鹿面を拝みに来たぜ。」

ジダーノフは満面の笑みを浮かべる。時期にすると1年ほどではあるが、長いことあっていなかったからだ。

「久しぶりだなぁ!お利口さんにしてたか?」

「あぁ、してたとも。文字の書けねぇ俺が今となっては学生だ。随分と利口になったと自覚してるよ。」

席に座り、煙草に火をつけたのなら、本題に入る。

「…で、なんで俺を呼び出した?わざわざ日本にまで来て何を伝えようというんだ?」

あえて思考は読まない。どうせろくなことではない。

「イリイチ。お前さんまた殺し屋やらねぇか?生温い組織のガキどもを教育して欲しい。」

「それは却下。結構学生生活が気に入ってるんでね。それに、ボスがいない今となれば、別にお前らとつるむ気は無い。」

そう言うだろうなと言わんばかりにジダーノフは高笑いをする。実際こいつとの関係はボスがいなくては話にならない。

「そうかそうか。やっぱ俺たちはボスがいねぇと纏まらねぇよなぁ。じゃあ俺の愚痴でも聞いてくれよ。」

「まぁそれは構わねぇ。せっかくの東京旅行だしな。お土産買って終わりじゃあ面白くねぇ。」


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