愉快痛快
「この学園は日本のカオスだ。住所も名前も経歴も顔すらも出鱈目な異常者の集まりだ。だから殺されることすらも自己責任。復讐も自己責任。強者がルールを作っているのではない。ルールが強者を作っているのだ。」
「色恋沙汰。ったく、この学園にいるやつは話し合いが出来ねぇのかよ。どいつもこいつもとってつけたような馬鹿ばかりだ。」
イリイチからすれば飯の種になるであろう色恋沙汰も真犯人の思考があまりにも自分勝手では呆れるものがある。
「たった10年間の想いが破綻しただけでシリアルキラーかよ。誰が言ったかより何を言ったが大事とは言え、幼稚なんだよ結局はさ。」
リーコンをメッセージで呼び出す。当然ながら話すことはただ一つだ。
「よう。守秘義務があるから言わねぇが…」
「あぁ大丈夫だ。悲しいラブロマンスは堪能したよ。」
「上手く運べば2年生全体を指揮できる所まで来ている。2000人弱の2個大隊だ。これがあれば大体のことを行える。」
リーコンの言う通りだ。高橋の大きな秘密を知っている。桑原はリーコンに対する好感度は消えていない。そして、イリイチと双璧を成す翔すらも指揮できるところまで来ている。
「桑原の好感度はまるで下がっちゃいない。我慢強い子じゃあないか。優しい言葉のひとつでもかけてやれば、当分はこちらに従うさ。」
「未来を指揮して、高橋と仲直りをさせる。2人が付き合うのも悪くは無いが、やはり、友だちのままでいてもらった方が都合がいい。」
「バイセクシャルだ。恋人には翔になってもらおう。レズ一直線だったらそれも夢物語で終わりだがな。」
「特務生徒の件はどうするんだ?」
「指令を出したのは義経先輩だ。白紙和平を破棄するって言えばこんな下らない特務はすぐにでも破棄されるだろう。」
「何もかもが都合がいいな。俺たちは外道だ屑だ散々言われたが、人の事を言えないような阿呆共ばかりで助かるよ本当に。」
笑いが止まらない。こうも簡単にものが運ぶのはやはり快感だ。横浜校はもはやイリイチの手の中だ。
「笑えてくるな。本当に笑わせてもらったよ。いやぁ、50億円に釣られて島国にきたのは正解だったな!」
ロシアの大熊は決して暴力のみの男ではない。戦わずにして勝つ。理想的な勝利だった。
次の日 特別指導室にて
「遊びに来たぜ、未来。悪かったな。誤解させるようなことして。」
「ううん。あたしは別に怒ってないよ。ごめんね勘違いして殴っちゃって。頭に血が上っちゃって…」
覆い隠すようにリーコンは未来を抱きしめる。気取ったような動きだが、案外こういうのが効くらしい。
「いいんだ。別に気にしちゃいない。それよりもなんであの子とそんなに仲が悪いんだ?気分が悪くなければ教えてくれないか?」
わざとらしく、そして確実に相手の口で説明させる。重要なのは情報そのものではなく、情報をどう使うかだ。わかり切った答えを聞く。
話は長かった。それだけ関係が深いということなのだろう。ただ相打ちをつき続かる。
本当に学園情報通りだ。プライバシーすらもこの学園では自己責任だ。すべてはどこかで監視され盗聴され、憲兵たちは見張っている。
そして話し方にも注目した。そこまで怒りを感じるような喋り口でもなく、昔ながらの親友の紹介のようにも聞こえた。これはいけるな。案外、派手な殺し合いができるヤツらのほうが仲直りはしやすいのだ。不良マンガではないが。
「…仲直りする気はある?」
長い、だが短い沈黙のあとに呟いた。
「…うん。やっぱ美咲は友だちとして好きなの。」
嫌よ嫌よも好きのうちよと、アバズレだ売女だ散々ボロクソに言った相手と仲直りするという考えが出るだけ素直である。あとは高橋を説得するだけだ。
「分かった。近いうちに会う準備をしといてくれ。」
あっさりと終わらせることができる可能性が出来た。あとは鈴木翔に連絡するだけだ。
メッセージアプリを開く。
今日、俺の部屋にこい。お前には損な話ではない話をしてやる。




