全て
イリイチは安眠中だった。最近あまり寝れていない。困難なことが多すぎた。久々に安眠していたのだ。
だが、それは脆くも崩される。感情察知を限定して、察知しやすくしていたのが仇となった。
「ちくしょぉぉぉ!なんでこういう時に限って問題を起こすんだよ!」
もはや逆ギレである。だが、動かざるをえない。リーコンは意識不明。桑原は戦闘準備万全。高橋も翔も気がついていない。
「大智!おい、大智!でろよ!くそっ!」
こういう時の大智は爆睡してるのか電話に出ない。イリイチは朝が弱いのだ。本当はこんなことはしたくない。
「義経も武蔵も無視を決め込む気でいやがる…!なんでまともな恋愛ひとつも出来ないんだよ、社会不適合者どもめ!」
殺し屋に社会不適合者と呼ばれる始末の彼らだが暫くしたら落ち着いたのか、自分で解決するために動き始める。
「ようは戦闘能力を奪えばいいんだ。…まてよ。高橋の所に向かうならアイツらに仲良く殺し合いさせればいいんじゃね?」
ようはどちらが勝とうが美味しいように転べばいいのだ。桑原が勝てばその場で逮捕。懲罰大隊で二度と学園には戻ってこない。
高橋が勝てばそれはそれでいい。今の目的は桑原の暴走を止めることだ。あいつが止めてくれるならばそれに越したことはない。
「美味しい展開だ。よし、寝よう。どっちかが意識不明になりそうな所で急行だ。」
疲れているのか支離滅裂な行動に出る。彼の不眠を考えれば仕方の無いことなのかもしれない。
美咲は少し勘づいていた。翔からのメッセージで全貌を理解した彼女は、そう遅くないうちに核弾頭がこちらに向かいつつあるのを認識している。
紗友希の情報でそれを補強する。本当にあと少しで着く。
その刹那、激しい爆発音が聞こえる。
「なにをしているんだ!君!」
生徒会本部。イリイチと義経によって木っ端微塵になった本部の代理として置かれたこの建物の入口はグレネードによって破壊された。
「うるさいなぁ…。」
そんなことはお構い無しに、どんどんグレネードが打ち込まれてくる。会長も
代理も出張でいない以上、この本部を守る戦力は…
「探している人ならここに居るわよ。」
「出てきたな…アバズレめ!」
認知した瞬間にアサルトライフルが火を噴く。だがそれらは何重にも引かれた糸により防御される。
「そんなんじゃあ虫も死なねぇよ!」
糸を同時に向かわせる。それを回避するまでもなく剣に巻き付ける。
「あんたの行動は全てわかるんだよ!」
超能力で浮かせておいたロケットランチャーを5発発射する。美咲は糸を使い華麗に避けた。
「こっちだってそれぐらいはわかる。」
糸を巻き付けて、ランチャーを未来の方に向かわせ、同時に発射。爆発音と共に無傷で立っている未来。
「そんなものであたしを殺せるとでも思っているの?舐めすぎ。」
機関銃を取り出し、空中に向かって偏差撃ちする。防御するだけの糸を用意していないため、慎重に避ける。
空中から地上に舞い戻ると、地面から糸を出し、大量の斬撃を喰らわせようとする。斬撃を剣によって軌道を変え、すべてずらす。
高レベルな殺し合いが続く中、生徒会は教員導入による解決を図る。教員が介入するのは非常事態の時だけである。連絡を受け、停止のために教員たちが向かってくる。
「離せよ!くそっ!」
結局この前のように終了した。生徒会の本部はまたもや崩壊寸前に陥り、2人の闘いは一応は終わりを告げた。
「やべぇな。」
野次馬たちは息を呑んだ。凄まじい闘いだった。教員の介入がなければ間違いなくどちらかが死んでいただろう。
2人は連行され、事情聴取を受けることになった。結局解決はせずに、生徒指導と称して1週間ほど隔離することで鎮圧を測った。
「あーあ。これで核弾頭は降ってくるな。」
イリイチはどこか楽しそうな面持ちで言う。2人が仲直りしなくては、リーコンは間違いなく消される。間違いなく。
「…いいや、まだ終わってないかもな。」
強運はリーコンの生命を維持する。憎しみは憎しみのままに屍になるまで誰かの生命を喰らい尽くす。哀れなあの子は一体いつまで憎しみを無くして救いを得られるのだろうか。それはそう遠くない話なのかもしれない。
「畜生。頭が痛てぇ…。いや、まだ生きている。まだ俺の夢は終わってはいない。」
愛とか恋を論理的に説明することはできるのだろうか。どんなに理屈で捻じ曲げようと、最後には人間の心が勝利する。そしてリーコンの心はただ一つに統一されていた。
「上等だ…。陳腐なラブロマンスを受け入れてやるよ。あいつが俺の望む人間になるのではなく、俺があいつの望む人間になってやる。愛を与えられるのでは無く、愛を渡してやる。その欲求を満たしてやって、学園の全てを握りしめてやる…!」
リーコンは固く固く握り拳を造り、心をひとつに成功するための意志を持つのであった。




