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Keep Yourself Alive 第六感の場合  作者: 東山ルイ
第2次ダウンフォール作戦
284/289

"俺の人生そのもの"

イリイチは時々思い立ったように日記らしきものを記していた。内容は支離滅裂で出鱈目な物。その大半は読み返されることなく破棄されていたものの、雑なキリル文字で殴り書かれた文章を、イリーナは少しだけ読んでいた。

「終わりなんてない旅…。」

「…イリーナ?」

術式の計算を終えた若葉が超能力を行使しようとした時に、イリーナは不意にその言葉を思い出した。ふと呟いた言葉の真意が理解不能な若葉は怪訝な顔になる。

「……若葉、術式の計算が終わった所悪いんだけど、推敲出来る場所がいくつかある。も1回計算出来る?」

「え?…あ、うん。」

意思の受信状態を送信へ切り替える。それは若葉の使える計算機が倍増したことと同様の意味であり、同時にイリーナの深層心理に触れる機会でもある。

「頭が冴えてきた…。凄い…。これも第六感(シックス・センス)なの?」

「…そう。」

例の日誌には、『意思の受信状態を送信のみに切り替えることで、送信した相手の演算力は倍となる。』と記されていた。それをイリーナは模写しただけなのだ。

「…人の意思が入り込んで気持ち悪い?若葉。」

しかし、その後に書かれたことは『その状態は相手に自分の意思を裸にして見せることと同意義。』だった。イリーナは若葉ほどに信用と信頼を寄せた人物でなければ、そもそも提案もしなかった。

「…大丈夫。」

若葉が受信した意思には、イリーナのそれと()()()()()()()()()()()()()()()()()()の2つだ。人の悪意が詰まった意思に、若葉は辟易を覚える。

この不思議な超能力を大きく5つに分けた。まず通常状態。この状態で行えることは、大雑把に言えば意思の受信だ。意思を受け取ることで、その人間がどこに居るのかの検討、要するに直感としての第六感(シックス・センス)。また、不特定多数の人間の意思を吸い取ることで、擬似的な未来予知をも可能にする。また、意思の受信は送信という形で必ず返す必要があるため、その意思をある程度改竄することで超能力の不発や暴発を起こすことも可能。

「イリーナ、ありがとう。これでアイツら倒せるよ。」

「…うん。」

生返事なイリーナを少し気にかけるが、若葉には時間がない。試算の結果を1秒でも早く行わくてはならないのだ。若葉は颯爽と人混みを抜けていった。

____

___

__

「先鋭化と送受信…。五感消滅による俊敏化。俺の超能力で試せることは全部やったし、実用性があるのはこの3つに普段を合わせた4つだけ。だが…。もし、確実にこの世界に戻れるならやってみたいことがあるんだ。それは…。」

いつ話したのか、どこで話したのか。大半を忘れてしまったが、最も印象に残った会話は、確かに話したことなのだ。

「…ま、確証がねェからな。だからやらねェ。俊敏化だって欠陥があるからあまり使わないし、欠陥があるものはあまり好きじゃないんだ。」

わずかの妥協も許さない。他人と友人と親友と家族と見方によって多種多様の性格が垣間見ることが出来る存在は、イリイチの特色のひとつだった。

「欠陥のない人間には魅力もないよ。」

普段は惚けていて、冷静で表情を変えることのない妹から放たれた言葉は、イリイチを少し驚かせた。そして彼は高笑いをして、そして言ったのだ。

「そうだな。全くそうだ。周りを見渡しても欠陥のねェ人間はいねェしな。いい子だ、イリーナ。」

遥か遠くに感じていた兄からの褒め言葉にイリーナの頬は少し緩くなる。イリーナはイリイチに会った瞬間から、憧れを焦がしていた。

____

___

__

戦艦3隻は、互い同士で衝突を起こし、その爆滅を見せつけることなくどこか彼方へ消えていった。学園横浜の生存者はあまりにも奇怪な出来事に呆然とするものの、結局どこかの誰かがやった超能力という結論へたどり着いた。

空間移動を駆使して戻ってきた若葉は、まずその喜びと感謝を伝える相手の所へ行った。しかし、イリーナの姿はどこにも見当たらない。

「そこの可愛い兄ちゃん、お人形さんみてェな金髪の子なら、あっちの方向へ走っていったぞ。」

鋭い切れ目と、独特のオーラを思わせる赤く染まった長髪とは対照的に優しげな口調で理人は若葉に説明した。

「…ありがとうございます。すぐに行きます。」

深々とお辞儀をすると、若葉はまた走り抜ける。理人はそれを眺めながら煙草へ火をつけた。

「いいんですか?イリーナちゃんの張り詰めた顔からして碌な方には向かっていないでしょ?」

「近広、いいんだよ。お前内務部にいたくせに知らねェのか?イリイチの精神安定を保っている存在は2人。1人は義理の妹であるイリーナ。もう1人は…。」

豊かな黒髪、天使のような声、中性的な顔、平均よりも一回り低い身長。落ち着いた性格。

「水野若葉、だ。不思議だよなァ。ゲーム並みに人殺しまくった悪夢みてェな野郎でも、精神安定剤として家族を心から渇望している。一緒に呑んでる時にしきりに言ってたよ、若葉とイリーナは俺の人生そのものだって。」

ただの殺人鬼ではない。波留と理人はそう理解しつつあった。



なんか繋がりが悪くなってしまった…。

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