簒奪者
「多少生命を削るけど…。やるしかないわね。」
即席の遊撃隊は、もはや横浜を覆い尽くすといっても過言ではないWarShipを撃墜するための覚悟を決める。手始めに、海里が作り出した強大な磁場が学園横浜を守る。
「空間移動。船の中央へ。」
「…了解。」
1秒と経たずに、海里は船上へ立った。その立役者は、手痛い心傷から苦節を乗り越え立ち上がった未来だった。
「石井、磁力に引っ張られない上にこの横浜の海へこれを叩き落とせる誘導装置の構築をお願い。」
「は、はい!」
都合のいい物質を作れるのは大きい。最悪磁力変換で無理矢理海へ叩き落とそうとしていたが、その必要がない。
慌てふためく船員の中には、創成から寝返った科学者が居た。
「おいおい、お嬢さんたち。いくら超能力者だってよォ、たったの4人でこれを叩き落とすのは無理があるんじゃねェか?なァ?神里かi…。」
背丈は160cmもないだろうし、女顔で髪も伸びていて声変わりもしていない。そんな彼は女性に見えても仕方がないだろう。
そんな少年は、不相応な拳銃から不相応な銃弾で科学者を撃ち殺した。
「フゥン。売国奴の癖にそこまで偉そうになれるのね?あんたらの底が知れるわ。まァいい…。だったらたった4人の超能力者を…止めてみなさい!簒奪者のクズども!」
海里が吠え、それは船の上では1000人を数える船員と4人の学生超能力者の決着を決めることだと誰もが思う。
「オラァァァァァァァ!!」
少人数は得策だった。海里が磁場をずらし尽くし、船中は右も左も上も下も出鱈目な状態に陥る。
空間移動を駆使した未来による1人で行う波状攻撃は、磁場の影響を受けない武器を作った萌依による賜物だった。
「…!危ない!」
未来を補助するのは、彼女に憧れの目線を送り続けていた若葉だった。華奢な身体には天才的な術式が詰まっている。その空間移動術式を使って、若葉は未来に致命傷を与える弾丸を転換させた。
「…ありがとうね。若葉。」
しかし、上級生にかつての明るさや自信に溢れた感覚はないように思えた。さながら、悲壮感すら漂うように。死地に向かったように。
「何が起きようと動揺しちゃダメだ。先輩のためにも…。」
爆音に掻き消された言葉は、若葉の悲痛な気持ちだった。
「畜生!なんなんだこの化け物どもはァ!!」
あらゆる戦闘継続能力が削がれていく。おまけと言わんばかりに船員はどんどん死に絶えていく。限界だった。
「船長…。非常事態の時には…。」
彼らに課せられた使命はただひとつ。日本を破滅させること。船が制御不能になった時点で、日本人を1人でも殺す使命を遂行するには、これ以外にない。
「船員に伝えろ…。WarShipは自爆すると。」
積み込まれた核兵器は3発。計算上爆発すれば関東圏そのものが更地になる。




