正気の沙汰
「学園横浜序列第1位、鈴木翔だな?」
黙々と翔はラーリャに向けて歩く。風向きが少し変わった。
「……黙れ。」
その瞬間、黒い暴風が巻き上がった。それは真っ直ぐにラーリャを崩壊へ持ち込もうとしている。
「義賊だか共産主義だかは知らねェし興味もねェ。だがな…。俺の母校を壊して、俺の女を傷つけたテメェらだけは…。絶対にぶち殺してやる…!」
金切り声を上げながら上り詰めた暴風は、まるで翔の心境を表すようだった。ラーリャは張り付いた笑顔を強くする。
「いいねェいいねェ!愛とか友情みたいな陳腐ですぐ壊れるもののために生命張るのか!いいじゃない!」
握った心臓に与える握力を強める。美咲はこの世の業を背負ったように言葉も出せずに苦しみもがく。
「……あ!?」
冷静でなくては超能力は発動しない。ましてや、このような学園横浜中に観測可能な黒い暴風なら尚更のことだ。
翔は至って冷徹だった。この黒い暴風は、壮大な囮だったのだ。彼はラーリャとの間合いを一気に狭めた。
「消えちまえよ。クソ野郎。」
右手をラーリャへかざす。そうすると、死期が近づいたことを悟ったラーリャによる惨めな生命乞いが始まった。
「ま、待った!ここで辞めてくれれば、展開した全同志に学園横浜の攻撃を辞めるように要請する!だからここで殺すことだけは辞めてくれれれれれれれれ…。」
良くない行いには必ず罰が当たる。子どもの頃から言い聞かせられてきたこと。翔はそれを従順に守った。
しかし世の中はそのようなことを気にしない者ばかりだ。それに嘆くことはいくらと出来ても、それに罰を与えることはそうそう出来ることではない。
「罰だ。テメェのこれまでの人生と、テメェのこれからの人生に。あばよ。」
ただ押し黙り、美咲は経過を傍観していた。最前まで笑い狂っていた狂気の男が、狂気の極みに居るものに罰を与えられる。
「神罰…。これが…。絶対的な因果応報なのね。きっと。」
懲罰のための術式、万物破壊の真髄。
「やめめめめめめめめめめめめ…!」
「遅ェよ。何十年もな。」
細胞1つ遺さずに、後悔や悔いだけが残る無様な死に方の末に、ラーリャは消え去った。遥かどこかに。
「オォ、ラーリャの野郎は死んだみたいだな。」
コーバは感傷に少し浸る。それでも彼らは進み続ける。その先にある歓喜と屈辱のために。加虐的な欲望を満たすために。被虐的な希望を満たすために。ただただ進み続ける。
「子どもには夢がある。未来もある。挽回のチャンスはいくらでもある。しかし俺たちにはそんなものはない。30年前から、20年前から、きっと生まれた時から。だから若さは光り輝くように見えて、そして憎い。憎いから奪おうとする。論理なんざ唯一それだけで十分だ。」
炸裂弾による完全な差別なき攻撃は、横浜都市を焼き払う。その中には様々な思いを抱えた様々な人間が居るのだろう。
「生まれは不平等死は平等。イリイチ、そうだよな?」
在りし日のイリイチは口癖のようにそう語っていた。それはコーバも同様だった。
ロリコン野郎が1番最初に死にました




