破防
「あー、なんだよクソ。イリイチのデクが碌に働かねェ性で仕事は失敗じゃねェか。あのガキほんとにあのイリイチなのかよ?」
モニターに表示された学園横浜の惨劇は、ロシア当局が企んだ計画の致命的な失敗を表していた。破壊されたものは学園横浜の校舎と科学班だけであり、しかもそれを護衛するために、もう手の届きようのない数の超能力者傭兵軍隊が護衛に当たっていた。
「しゃあない。上に伝えろ。増援が居るってな。と、言っても創成と張り合える戦力つったら、連邦軍が核撃つぐらいしかねェがな ?第三次世界大戦を引き起こすか、尾っぽ巻いて祖国へ帰るか…。どっちにしても負けだ。」
一言も喋ることなく、彼の部下は有益な情報を差し出す。役人である彼は、その情報に驚きしばし固まる。
「おい…。マジか?これは凄いなんてモンじゃねェ、革命だ!リェヴァリューツィア!素晴らしい!俺のやったことは全部途方になったんだがらな!」
当局の発表は絶対だ。それは暗躍しながら国益を追求する彼ら役人にも。
「毒には毒を持って制すと言いましょう。もう、創成学園横浜校だけの問題じゃあない。彼らのような怪物が味方につけば、創成傘下の10校を粉砕して情報を抜き取って最安で超大国に再び成り上がる手筈は整いつつあります。」
誰もが今までを無為にされたことに憤りを覚え、誰もが強い祖国に夢を見る。彼らは祝杯を上げようとする。
「超能力者は超能力者で制す!我が同胞の偉大なる努力と献身に乾杯だ!」
グラスを上げ、それを合わせた瞬間、それは崩れ去った。
魔法はやがて溶ける。溶けた先には、因縁の同胞が笑いながら立っていた。
「ご機嫌いかがかな?祖国のために働き詰めの兄弟諸君。色々と考えたんだが…。やっぱ、兄弟殺し出来るヤツってのは何時だって有能なんだよ。だからさ…。」
焦りを見せながら、拳銃を抜き出した役人の1人の頭は、苛烈に上半分を抉り取られた。
「ココで仏になってくれや。」
イリイチが両手に持った自動拳銃は、彼らの寿命が残り僅かであることを伝えた。サイレンサー付きの霞む音が、彼らの聞く最後の音となる。
人間だったものが、虫並みの息となりながら倒れる。ハゲ散らかした役人はイリイチに負け惜しみを渡した。
「おい…。イリイチ。お前は金の上なら仕事は必ず成し遂げるんじゃねェのか?アァ?」
指を踏みつけると、イリイチは軽やかに語り始めた。
「そりゃ…。言ってしまえばつまらないがよ、俺は了承なんざ一言も1文字も書いちゃいねェぞ?それが全て。報酬も1円1ルーブルと手つけてねェから安心しろ。」
無法者相手に論理を求める方が例外な考えだ。役人はもはや死を待つだけとなりながらも、せめてイリイチを道連れに、或いは道連れに近い感情へするために、執務用のモニターを指刺した。
「それ見て…。恐れろよ…。クソ野郎が…!…ッウ!」
「うるせェよ、ハゲ。」
発砲された後に出た空薬莢が、たまたまモニターに当たった。
少し興味が出たイリイチは内容を吟味した。その内容は、彼の顔が青くなるには、確かに十分だった。




