第六感 VS 羅刹速疾鬼
「……お前と闘う日が来るとは思わなかった。大智。」
俯きながら、人を喰った笑いを飛ばす。きっとこれは、決定された物事だったのだろう。
「そうだな…。イリイチ。」
まるで感傷に浸るように、大智は苦笑いだった。いくつもの時を越えて、いくつもの友情があり、そして今完全に対峙しているのだ。
「…俺は昔からお前を買っていた。この自称常識人どもの中じゃあ、お前はとても輝いて見えた。親友だってのも嘘じゃねェし、今だってそう思っている。俺は嘘はつかねェ。」
「だが…。強さの果てには渇望があった。今の俺は強い。強すぎるほどにな。だから求めてやまないんだ。本気の闘いを。全身全霊を懸けることに値する本物の闘いを。お前だってそうじゃあないか?イリイチ。」
あれだけ恐ろしい超能力者の大智とイリイチが、波瑠の目からは哀愁すら漂うように見える。成れの果てとして果てても、それでも熱望を冷ますことはない。それが強い超能力者というものだ。
「なら…。1回だけマジでやってやるよ。大智。ぶち殺す気でこい。ぶち殺してやっからよ。」
眼孔を開き、イリイチの瞳は赤色を帯びる。赤いオーラらしきものと、金色の羽根が身体を纏った。
「上等だ。後にも先にもねェからな。こんな機会は。」
尊敬の意を忘れていないが、大智もまた歓喜の中に埋もれていく。彼の瞳は茶色から青色を帯び始めた。
2人は一旦距離を置き、正門前の広々とした土地が戦場であることを認識し合う。
「行くぜェ!」
「ぶっ壊してやる!」
音速。波瑠の目からは、その感想以外を出せない。ぶつかり合う音が、近いということもあれど、今までのどの超能力者が闘った時のそれと比べて、ただ凄まじいことだと呆然と眺めている。
黒と青の放射線が、赤と金の放射線を追いかけている。次に見えたことはそれだけだった。
「滅茶苦茶だ…。これが速疾鬼…。これが第六感…。」
やがてそれが組み合わさると、大智とイリイチは地上へ落ちてくる。互いに返り血と自分の血が分からない程に出血しており、完全に互角状態だった。
「どうやら…。地上戦のようだな。」
折れた歯を吐くと、イリイチは容赦なく大智へ殴り掛かる。
だが、それを読んでいた大智は華麗に交わしきり、象の足跡のような痕跡の中にイリイチを閉じ込める。
「やられたな…。」
「パチくせェな!」
密かに忍ばしておいた4枚の羽根の1つが、大智の身体を撃ち抜いた。深刻な傷を負い、そのまま呻き声を上げながら、生まれたての小鹿のように数歩歩き、一旦倒れた。
「……………!」
息も絶えながら、大智が立ち上がる未来を見てしまったイリイチは意を決した。
「よォ…。次で終わりだ…!」
「そうだな…!」
黒色になっていた羽根が、金色へと変化した。それは最高の一撃への布石になるはずだった。
「!?」
突如として消えた無合物による羽根に一瞬戸惑ったイリイチは、大智の拳を防御出来ずにまともに喰らってしまった。これが致命傷となり、足が崩れ落ちた。
「……?どうした?イリイチ!?何があった?」
勝利の余韻に浸る前に、イリイチのような隙のない人間が隙だらけで攻撃を受けたことに疑念を覚えた大智は、聞き覚えのある意地の悪い笑い声が犯人であると気がつく。
「いい演出だった。大智。」
拳銃で大智の右脚を撃ち抜くと、その声の主は1層高笑いをした。




