学園横浜 生徒会 内務部副委員
「さて、勝利の祝杯と行きたい所だが…。」
「問題は山積みですね。」
ホテルのロビーには2人が居た。生徒会を完封に追い込んだ男、イリイチと、帰る場所を失いイリイチと行動を共にしている萌依。
「そうだな。山積みだ。誰が誰の味方で誰の敵なのかも分からねェ。人の意思は複雑怪奇。深層心理にまで第六感は潜り込めねェからな。」
イリイチの委託された依頼は「学園横浜の完全掌握」だ。これは無理難題に等しい。金と超能力があれば陰謀は簡単に生まれる。掌握は事実上不可能なのだ。
「当面の問題は、生徒会派の超能力者どもをどうやって潰すかだ。こちらは少人数なんて次元じゃない、たったの4人だ。4人じゃあどうやっても潰されて終わりだよ。」
「4人?あたしを含めて2人だけでは?」
「スカウトしたんだよ。片割れは報酬と地位保障で。もう片割れは…。現内務委員を罷免するために。」
携帯が鳴った。イリイチはロックを解除すると、内容にガッツポーズを飛ばす。
「よし、よくやった。波瑠近広。内務部が持ってた情報は全部俺の掌だ。」
「波瑠くん!?あの子内務部だったの!?」
驚嘆を漏らす萌依は、内務部の徹底的な秘匿主義を改めて認識した。人当たりもよく、何故か友だちの少ない萌依の話し相手になることもしばしばあったのだ。
「なんだ、知り合いか。丁度いいじゃあないか。じゃあ…。」
指を鳴らしたイリイチは、それに反応して突如現れる男と共に、顔合わせを行おうとした。
「ッ!びっくりした!」
「透明系統超能力者だよ。名前は山田理人。よろしくな、萌依ちゃん。」
「よし、辺りが賑やかになったな。外出るぞ。」
「この演出のために何分間待ったと思ってんだイリイチィ!」
急に現れた男子高校生に驚く民衆を後目に、彼らはその場を離れる。
波瑠との待ち合わせ場所は、閑静な公園だった。学園横浜近郊は、超能力者による犯罪多発の性で治安が猛烈に悪い。大量の落書きとこびり付いた血がここは日本ではないのではないのか、という奇怪な気分をもたらす。
「お初に。イリイチさん。山田さん。そして…。石井か。」
「波瑠くんって、あの内務部所属だったの?」
友人をを見る目から、怪訝な目に変わる。波瑠は申し訳なさそうに経過を語った。
「まァね。でも…。決して盗聴とか拷問がしたくて入った訳じゃない。手前味噌かもしれないけど、内務部を正したかったんだ。果てには解体もしたかった。」
「そう思って1年の時入部。悪の親玉だったアーサーが罷免されて本校へ逃げ落ちた。リーコン体制で少しは透明になると思ったら…。」
理想と現実に揺れ動く波瑠は、いつしか絶望を覚え始めていた。それは彼の表情が物語っている。
「良くなる所か、もっと暴力装置となって果てた。もう俺はあの人についていけない。俺はあの人に教わったことはひとつだけ。」
劇薬による強制解決を図る波瑠の理想は、まだ途切れていなかった。
 




