偽善でも独善でも
「今お前ちょっと怒ったろ?いいねぇ!カッコイイぜ!」
怒りとともに彼女の周りにある糸たちが暴れ始める。完全に我を失ってはいないのか、それらは真っ直ぐに義経の身体へと向かっていく。
「お前らだけは必ず殺す!!必ず!必ず!」
「ヒステリックだなぁ。やっぱ病院行くかお前?」
拘束されているというのに随分と余裕だ。あと少しで腕が引きちぎれるという所まで来て、ようやくやる気になったのか、糸を引きちぎる。
「あーあ。身体がボロボロだよ。おい武蔵。俺は治療するからお嬢さんの遊び相手になってやれ。」
「御意。」
食い気味な様子で容赦なく蹴りを食らわせる。あまり予測してなかったと言うよりは、眼中から消えていた男の蹴りによって、大きく宙に舞う。
「お嬢さん。あの子たちはまだ死んじゃあいない。気絶ているだけだ。義経くんを本気で怒らせる前に…」
「うるせぇぇぇぇ!!」
再び糸により、義経を捉えようとするものの、それらは武蔵によって全て阻止される。
アドレナリンが止まらないのか、疲れを全く感じさせずに今度はターゲットを武蔵に変更する。糸を集合させ、鞭のようにまとめ、武器として攻撃を試みる。
「仮にも学年1位か…だったら此方もな。」
日本刀を持ち出し応戦する。確かな実力とそれを裏打ちする経験がある武蔵の方が有利ではある。
だが美咲はキレていた。同時並行で他の糸によって攻撃をする。武蔵の身体を完全に突き刺した時には、それは勝利ということで終わるはずだった。
「痛てぇな。マジで痛てぇ!最近の若者は怖ぇわ。」
そこまでしても、軽く転んだかのように立ち上がる武蔵のタフさには流石のブチ切れモードの美咲でも恐怖を覚える。
その恐怖に漬け込む形で、みぞおちを上手く食らわせる。義経が拍手をした時点で勝敗は決していた。
「よく頑張ったよ。今頃全米が泣いているところだろうな。」
皮肉か煽りにも似た賞賛を与えると、何やら面白いことを思ったかのように話しかける。
「だいたいさ。なんで俺に噛み付くような真似したんだ?ゲーム感覚で一般生徒に金を掛けたからか?でもよぉ、あいつらは本当にお前らの正義心に従って、助けるようなまともな一般人かよ。」
息も絶えかけている美咲は答えることも出来ない。
「そりゃねぇな。あの3人は極悪人たちだ。まずあのロシア人。イリイチは大量殺人鬼だ。どれだけの罪もなき老若男女を手にかけたんだろうな?それにそいつのお供くん、三浦大智とリーコン。あいつらだってそりゃ人でなしだ。」
イリイチのことは勘づいてたもののほかの2人はまるで知らなかった。
「三浦大智。こいつは自分の地元の不良の頂点だ。趣味はいじめと恐喝。学園にいるから罪に問われないだけで、社会にいれば今頃年少の中さ。」
「リーコン。こいつが1番ヤバいかもな。まるで関係のない他人の情報を抜き出して、関わった詐欺事件は星の数程だ。こいつだって学園にいなければ今頃、年少で暮らしてるだろうさ。」
彼ら3人。まるで共通点がなかった訳では無い。向いている方向は違うものの、全員最低なろくでなしであることが共通点だ。
「なぁ、お嬢さん。俺は何も無差別に攻撃している訳じゃあない。無差別に攻撃すれば同じ穴のムジナだからな。こいつら3人は攻撃されて当然。いやぁ、被害者からすれば死んで欲しいだろうな?こいつら3人を守ることは本当に正義なのか?」
言葉が出てこない。確かにこの3人はろくでなしのクソ野郎だ。それでも…
「それでも…正義を御旗に学園に権力を持つ私たちが…なんの証拠もなんの裁判もなく…勝手に裁くなんて言うのは…絶対に…絶対に…許されない…!」
「なるほど。いいこと言うじゃん!クズでもゴミでも、法治国家では法なく裁くことは許されないってか。お嬢さん、あんた最高に正義のヒーローだよ!おい、武蔵。お嬢さん3人を丁重に家まで送り届けるぞ。こんな糞みたいな世界にも正義があるって知れて良かったよ!!」
「ご機嫌ですね、義経くん。じゃああの三馬鹿共はどうしましょうか?」
「法に基づいて処理しようではないか。なに、あいつらだって単純に捕まる馬鹿ではない。生徒会会長の権限を持って、逮捕のために動こう!」
義経は上機嫌であった。そもそも彼女ら3人が義経に適う通りはない。ゲームの中のミニゲームなのだ。叩きのめされても自論を曲げずに貫いただけでこのゲームはクリアなのだ。
「さてと、イリイチとほか2人に出頭を求めろ。既存事実を作り上げようk…」
「その必要はねぇよ。」
眼中に現れたのはイリイチでも大智でもリーコンでも無い、2年生のもう1枚の鬼札。破壊の貴公子。無機物を破壊し尽くす男。
「まだまだ終わりそうにもないなぁ…!」




