正義は我らと共に
正義というのはある日突然起こるものでは無い。人類の歴史において正義心を持ち、弱きを助け強きをくじく。そういったもの達はしばしば現れた。
それは彼女に対しても同じことが言えるだろう。高橋美咲。2000年生まれの幼児の中で最も多い名前と最も多い名字。名前だけでは当人の性格を図ることは出来まい。彼女は正義心の強い女のコだった。誰もやりたがらない仕事を率先して行い、いじめを絶対に許しはしない。誰よりも正しく、誰よりも強く、そして誰よりも繊細であった。
彼女を護る武器はあった。それは優れた容姿ではなく、高い知能でもない。超能力である。正義を守るために、誰よりも強くなくてはならない。そんな彼女にとっては、超能力というものは重要な手段であった。腕力では男に負ける彼女にとって、その差を打開し、正義を守るための手段だ。
この世界には争いや苦しみが満ち溢れている。それらを打倒するために時には愚直にも思われるぐらいに、必死に足掻き続けた。
学年1位がなんてことも無い。それは手段だ。目的である「正義」にはまだまだ遠いのだ。
「あれに火をつけて、またギャラリーキメこようってか?」
「あれだけじゃあ終わらないさ。彼女に対するシンパはこの学園にはよくいる。2年生と3年生の交流会のリーダーにはピッタリだ。」
正義心からの行動?大いに結構。人の考えや行動を止める権利も義務もない。「まぁ諸君。青臭い正義心と異常な欲求不満のどちらが勝とうが、我々には得も損もない。勝った方はこちらを粛清しようとするだろうからな。」
「シックス・センスっていうのは狡い能力だな。もうどちらが勝つか分かっているのだろう?」
「先の見えている未来なんて退屈さ。」
イリイチは吐き捨てるように呟いた。
どちらが勝つだって?そんなの決まってるだろう?誰もが同じことを思っている
電子工作が好きな生徒は多いものだ。彼女の人脈には驚かされる。元々はいじめられっ子だったらしいが、正義に従い救済された美咲の友だち、東野櫻は美咲のためならいつだって命を捨てる覚悟だ。
瞬間移動。ビックリハウスな学園でも希少な能力を持つ。1度でも訪れたことのある場所に自らと自らの意思を持って連れていく人や物を再構築することによって瞬間移動を可能とする。
だが、瞬間移動は瞬間移動だ。意思によって行うものである以上、数秒のタイムラグが発生する。それに攻撃手段には乏しい。
そしてもう1人、石田紗友希。こちらは散策機能を有している。内務委員会所属ではあるものの、個人的な関係で参入することとした。
「まずは…今回は何も言わずに闘ってくれることに感謝するわ。」
「なにいってんの。困った時はお互い様よ。」
良い友人を持ったものだ。これから行うことの危険度を知った上で乗ってくれる。
「ありがとう…ありがとう。うん。計画を説明するわ。」
計画はこうだ。紗友希が例の2人を散策し、動きが止まったところを櫻の瞬間移動でその場に直行。2人を拘束して、生徒会の権限を持って逮捕。大まかではあるが、あの2人の化け物さを考えれば、細かい作戦よりも、ある程度大雑把にその場の判断にて行う方がいいと考えた。
「大丈夫。絶対に成功させる。正義は我らと共にある。」
「義経くん…」
「あぁ、来たな。」
珍客はやってきた。だがお目当ての彼らではない。
「会長殿、代理殿。貴方たちの悪行が破綻する時間です。生徒会の権限を持って貴方たちを逮捕します。」
義経は高笑いしながら、人を馬鹿にするような意味を込め言う。
「逮捕?俺たちを?高橋さん。あんた頭大丈夫か?病院予約してやろうか?」
「とぼけんな!生徒に懸賞金をかけて、ゲームにしていることは知ってんだよ!」
それでも笑いが止まらない。それもそうだ。
「なんだよ。あのロシア人チクリやがったのか…。だが、まぁいい。参加は自由だからな。ゲームをクリアさせてくれたまえ。」
心底舐め切っている。まぁ、上等ではあるだろう。2年生の1位と9位と10位だ。生徒会長室に来れただけでも褒めてあげなくてはな。
「言われなくたって!」
先に仕掛けたのは美咲であった。なるほど。中々強そうじゃあないか。
「超能力者の中でも希少。特別能力か。糸使いとはやるじゃあないかぁ!」
義経と武蔵は拘束されるもののまるでビビってはいない。それどころか、もう勝ちを確信しているようだった。
「だけどな、高橋さん。上には上がいるものだ。」
非常にあっさり、そして簡単に拘束を解く。一瞬だけタイムラグが発生した時にはもう遅かった。
「櫻!紗友希!」
「お友達はあっさりとやられてくれたな。さぁどうする?次はどうする?」
自分の問題に巻き込まれ、倒れて行った2人を見て、彼女の中で何かが切れた音がした。




