権力闘争
「我々は太平洋戦争敗戦を乗り越えるために作られた連合共同体だ。創成は言わば家族。我々の親愛なる父、渡邉名誉会長は近々引退にあらせられる。後継として川上総括理事長が創成グループ会長と成られる。そして私は学園12校、いや、廃止校を抜いた10校の総括理事長となる。ところが…。」
学園横浜は既に小規模な武力衝突が生じていた。これに心を痛めているのか、現理事長である権藤は、学園横浜全体のNo.2格とNo.3格を呼び出したのだ。
「私の耳に届く限り、今、我々の子どもである生徒たちで小競り合いが発生しているようだ。本校との戦争もそうであったが、共同体の中の同胞たちが何らかの理由で闘争を繰り広げる事態をどう読む?大矢、近藤。」
長年学園横浜に務めているが、この貧相な老人から出ている独特の威圧感はいつ時においても恐ろしい。大矢と近藤は黙り込む。
「全体に迷惑を懸ける訳には行かない。現生徒会会長にも通達したが、私は3日後にはここを離れる。この闘争事態に対する具体的な解決案を生み出してくれ。」
目は口ほどに物を言う。権藤が部下の嘘や背信行為を見抜くときは、彼らが目を僅かにでも逸らした時であった。彼らは権藤の鋭い目付きに恐れ慄いたのか、目を合わせることを辞めてしまった。
「どうした?何故目を見ない?大矢、近藤。実を言えば私の後継者は諸君らから選ぼうと思っていた。だが…。これではな?」
冷たい声質を敢えて前面に押し出し、2人は半ば脅しを懸けられた。
理事長の椅子を狙う王位簒奪者による権力闘争は、新入生の入学、学園横浜そのものの更なる巨大化により、肥大化の一方を辿ることとなる。
「…この学園横浜を2つに割ってしまうと…。我々側の陣営に参入する生徒は、生徒会を中心とした者でしょう。具体的な名前は、会長、高橋美咲、会長代理、三浦大智、生徒会が確実に動員出来るPKDI:RANK4山下優希、かの有名なRANK:3の高木昴。内務委員として生徒を越えた情報を手にしているリーコン、本名…………。などですな。」
副理事長である大矢は、部下により具体的な闘争案を提出させたのだ。
「生徒会の生徒どもはそこいらの大人顔負けに権威を持つことに執着心を覚えている。実際、その特権によって彼らがいい思いをしたのは数回どころの騒ぎではない。いい条件を渡せば即座に参戦してくれるだろう。ただ…。」
「この学年の生徒会は歪です。会長を初めとする座席付きは、残念な程に求心力がありません。PKDIによる番付が、化け物どもを目覚めさせ、そして彼らは言うことを聞くことがない。そんな現生徒会がこじつけによって生徒を動員した所で、大したことにはならないでしょう。」
権威で動く者は、権威に囚われることのない無法者を押さえつけられない。確認する間でもない、わかり切ったことだった。
「近藤に理事長の座を渡せってか?戦場で生き延びて、学園横浜に入ってスカウトからNo.2まで登り詰めた。だがヤツがトップになればそれも全て破綻。1番最初にやる仕事は俺の罷免だ。」
大矢には自信と恐怖が半分づつ入り交じった心境を暴露する。その手は震えていたのだった。




