術の中
あれ以降、大智は祖父母の家の部屋に篭っていた。外部との繋がりを遮断するように、彼の部屋からは物音1つとしてわくことは無い。
インターホンの先に立つ者が、更なる世界へ導くのはそう遠い話ではない。
怪訝な感情は、彼の祖母も同じことであった。いきなりの訪問。いつ警察が逮捕状を持って突撃してくるか分からないというのに、スーツを着こなし、如何にもセールスマンという男は、予想の斜め上を行く言葉を出したのだ。
「創成学園横浜校教員の大矢光太郎と申します。突然の訪問で申し訳ありませんが、今日はお孫さんについてお話したいことがあります。」
何故、あの胡散臭い創成傘下の超能力者学園の教員がわざわざここまでやってきたのか。大智の祖母は少々唖然としていた。
「大智くん、そう。大智くんのことです。我々が認知している限りでは、少し、いや、かなりショックな出来事があった。そして…。」
言葉を選んでいる風を装い、大智が現れるまでの時間稼ぎに入る。創成が情報で敗北する事はありえない。大智の祖父母ですら知らない真相を暴いているのだ。
「……我々はその問題をひっくり返せる。」
独特の雰囲気に、人生の長さで言えば大矢の倍であろう祖母も圧倒され、その異変に気がついた祖父が出てくるのだった。
「…世界中に戦争と兵隊を売りさばいている野蛮どもがウチの孫に何の用だ?」
「そう思うのはご自由ですが、我々はこの国のどの組織、どの企業、どの政府、どの警察よりも誠実的です。単刀直入に言いましょう。彼、三浦大智くんを創成学園横浜校、学園横浜に是非とも欲しい。彼が入学すると決めた暁には、無実の罪で死刑囚に成りかけている智美さんの全ての罪を洗った上で釈放します。これは確実に言いました。確実に。もし反故になったら、創成本社に電話を掛けて私を罷免してもらって構わない。」
一介のスカウトがまるで魔導師のように語り、そしてそれが完全な嘘であることの確証を持てない程に、大矢の目付きは鋭く、狂気に満ちたものであった。
「……それが本当だとしたら、やはり貴様らは狂っているよ。朝鮮戦争の時から軍事的に介入していた傭兵集団なだけはあるな?」
戦前生まれの祖父は、太平洋戦争にて徴兵されることはなかったものの、その後に起きた「超能力者による武力介入」は鮮烈に記憶に刻まれていたのだ。
「いいえ?本当に狂っているのは…。貴方たちの息子さんではないですか?智美さんについて調べあげれば、それはそれは異常なものだ。泣き叫ぶ児童の声が明らかに虐待を受けた子どものソレだと思われ通報されたことが13回。大智くんに関しては、あれは完全なるネグレクトだ。我々は…。いや、私は大智くんに、これまでを覆すほどの人生を歩んで欲しいと思っている。これが本心から出た言葉だとどうか捉えて欲しい。」
同情は皆無。老後の500万円の年金を当てにして生きているスカウトは、唾を吐き捨てるような偽善に溢れた言葉を、あたかも本心のように騙ったのだった。




