地道な道
「本当は入学式でお言葉を述べる生徒は会長。それがダメなら代理。それもダメ?波乱に満ちてんな。なァ?」
2018年度入学式。それは学園横浜にとって特別な意味を成すものだ。第2校入学予定だった生徒を元本校と分割した結果、定員数は10000人強となり、設備に関しても増設が永延と続いている。華々しい1年の始まりは、会長である美咲の突然の休養と、代理である大智の入院によって、早くも黄色信号が点灯していた。
「だったら序列第1位に連絡しろ。答辞なんて与えられた文章をハッキリと喋るだけだ。こういうのは1種の示威行為なんだから、鈴木翔なら適役だろ?」
翔、彼の持つ携帯に何度と電話を掛けている。だが、それに応答するとは思えない程の完全黙殺であった。
「出ません。この場合は?」
「……序列第2位、イリイチだ。日本の学園に白人が象徴として立つのも悪くないだろ。ヤツの携帯と固定電話にひたすら掛け続けろ。」
こちらも気配がない。会長から仕事を投げつけられた三島は、ここで事態が面倒な方向へ傾いていると舌打ちを飛ばす。
「何奴も此奴も勝手にやりやがって…。次だ。序列第3位、柴田公正!この野郎が出ねェと…。アァ、クソが!」
救いがあった。公正は掛けてから5秒としないうちに応答したのだ。ひとまずは三島も一息つくことが出来た。
「生徒会が何か用で?」
「用だな。用。明日の入学式の答辞を頼みたい。未来ある超能力者のために文章を音読してくれないか?」
「……まァ、構わないが。」
「助かるよ。じゃ、明日の7時、生徒会本部に来てくれ。」
三島は1つの問題を乗り切ったことに安堵した。公正は学園横浜の最強格であることは誰もが認める事実。面目はなんとか保てたのだ。
「なんとかなったな…。急遽過ぎたからどうしたものかと思ったが。」
時刻は10時を廻った。生徒が残業地獄に苦しむ姿はある意味学園横浜でしか見ることの出来ない特色なのかもしれない。
「帰って寝るべ。明日も早ェし。」
華やかな超能力者たちを支えるのは地道に歩んでいる者である。その自覚と誇りがあるからこそ、やり甲斐があるのだ。




