千載一遇
扉の先には当然彼が立っていた。
「どうした?大智?この前の仕事の分け前はもう振り込んだ筈だぞ?」
「いや…。友だちにこんな事を言いたくなかったが…。」
彼の側面は幾度とある。その中のひとつに退廃した人生を貫き通せる程の資産を持っていることだ。ガレージに垣間見る高級車の数からして、それは決して見当違いではないのだ。
「金を…貸してくれないか?10億程。」
寝耳に水という表情のイリイチだった。第六感による意思の解読によって、今大智が思っていることをそのまま朗読出来る彼が、そのような反応を示すことに対して大智もまた、驚きを見せたのだった。
「とりあえず中に入れ。ここじゃあ話辛いだろうし。」
長い廊下を一言も発することなく歩いていく。巨悪を積み重ねた結果が、この栄光であれば、イリイチの人生はあながち無下なものでもないのかもしれない。
「……今しがた第六感を作動させたよ。普段から使ってると意思が常に流れ込んで気持ち悪くてな。イリーナにもこの方法を教えてるんだ。………!辞めとけ。その先には何も無い。」
「虚空夜叉を越える超能力者になりたいんだ。その施術だ…。そうか。未来予知も出来るんだもんな。」
「……お前の言うことも分かってるが、あえて言うぞ?強さの果てには何も無い。人間なんてある程度弱い方が長生きできる。強過ぎる存在は何時でも狙われるもんだ。」
「それでも俺は…。優しくなければ生きていく資格はないが、強くなければ生きてくことも叶わない。だから…。頼む!」
普段は飄々として、いつもなら笑いながら受け流すのだろう。しかし、今日この場に限れば、イリイチの顔からは笑顔が見えない。沈黙の中煙草を取り出し、咥えて火をつける。心做しか指が震えているようにも見える。
「……ほんとにいいのか?公正や翔ですら、もっと上にいるヤツらに利用されるだけのか弱い存在なんだよ。俺はお前を気に入っている。分かるだろ?親友だと言い切ったって良い。だから最後の警告だ。本当に化け物に成って、そして後悔して、最後はゴミみたいに死んでいく。それでいいのか?普通の生活を捨てても…。」
「…大丈夫さ。俺たちは無法者だろ?ヤツらは利用されて終わりだが、俺たちは利用したヤツらすらもぶち殺す狂犬だ。学園横浜も創成も政府も財閥も宇宙人も、誰も俺たちを掴めはしない……そうだ。そうだろ?そうだよな!?」
語尾が強くなるのは、意図したことではなかった。しかし、その結果イリイチは深いため息と共に、指を鳴らすのだった。




