隅っこで喧しいだけのラジオ
忙しい季節だ。新入生が右も左も分からずに入学してくると言うのだから。
高等部3学年生徒は、一応進路について考える必要があるものの、ここまで生き延びてきた超能力者たちは、何処かズレた感性が実社会で通用する訳もないことを理解しているからか、大半はそのまま超能力者傭兵軍隊に入隊するのだ。出世コースから外れても退役までに平均生涯年収の倍は稼げるし、実力第一であるからには、目立った実績を見せつければ士官になって途方もない金額と名誉を掴み取って墓に入ることが出来る。結局、その道以外の外堀を埋められただけな気もするが、実際超能力を活かす道は戦争介入か犯罪程度のものしかない。
「だから強くなりたいんだろ?ウチが拾った情報だと段階2の3年生すらもクビにしてしまう可能性があるんだ。このままだと俺もお前もクビ。俺は書類をチョロまかして段階3に相当するって書きゃ生き延びれるし、お前にも同じことをしてやってもいい。ただ…。地夜叉ってのは溢れ返っている。それなりの才能にそれなりの努力で生きてきたツケだな。で?羅刹速疾鬼に目をつけたのか?」
まるで全てを理解して、その上で高いところから人を見下ろしている。そんな男の口振りには少々嫌気が差す。だが、彼がその方法を知っているのは事実のようだ。
取り出された書類には、驚愕を禁じ得ない事実が羅列されていた。
「この前のカルト宗教の中に1人。羅刹天に到達したヤツが居た。柴田が律儀に俺たち内務部に引渡したが、ま、その先はどうでもいいだろ?とにかくソイツの犠牲のお陰で、我が学園横浜は汎用型超能力として超能力者の中のシェア率70%を誇る夜叉どもに匹敵する、あるいは優越している羅刹天の改良版、羅列速疾鬼の安定した供給が可能になった。」
今まで施術の段階で致死に至った実験動物がおよそ100人は居たこと。性能を大幅に落としてようやく作られたのは、地夜叉に比べて少し力では勝るものの、知能が言語能力を失う程に低下した人喰い鬼であったこと。涙ぐまじい努力の末に、天夜叉をも凌駕するが、夜叉と名のつく者の最上級である虚空夜叉には負ける程度の羅刹天が出来上がったこと。そして、大智の推測は誤差なく当たっていたこと。
「施術成功率は90%。10人で試して9人は完全成功。1人失敗で羅刹天止まり。しかし死んでは居ない。今より強くなるのは確定。さァ、どうする?隅で騒がしい雑音を流し続けるラジオのまま終わりたくはないだろ?」
きっと、リーコンは理解した上で心理をつく真理を告げたのだろう。




