天空の死神
「ほらァ!どうした小僧ォ!こんなもんかァ!」
虚空夜叉と羅刹による天空の死神同士の決戦は終幕を迎えようとしていた。2人とも満身創痍の状態ではあるが、僅かに公正が押されている形だ。
「こんなもんじゃあないぜ…。死ぬという運命に勝てなかったテメェらに…。」
互いにこれが最後となる。そのルールに従うように、空中において2人は怒涛の殴り合いを繰り広げる。
「未来がねェテメェらに…。俺の未来は奪わせねェ!!」
超能力すらも超越した、心意気によって公正が始めて上に立つ。刀が羅刹の右腕を刈り取ると、その勢いのまま空から地上へ叩き落とすのであった。
「ッは!痛てェな糞ガキィ!…ん?」
超高速で飛び降りた公正の右脚が確実に彼の胴体の骨をへし折った。痛みに悶える老人には、対抗手段は残っていない。
「負けだ。お前のな。」
地に降り立った公正は、一息つくとイリイチたちへの連絡を試みようとしていた。
「トドメは刺さねェのか?あ?」
悪態をつく。しかし、それは当然の疑問であった。
「殺すわけねェだろ?お前らは法で裁かれるべきだ。どんな極悪人でも、法治国家は法に乗っ取って人を処罰する。もう中世じゃあないんだ。」
「反吐が出るぜその甘さ。俺が法で裁けるとでも?人を殺したくないか?それとも人を殺す自分がカッコ悪くて嫌なのか?ああ?」
彼は隠し持っているナイフの照準を合わせようとする。どうやろうと助かる道はない以上、1人でも道ずれにしてしまおうとしているのだ。
「…誰かを殺ってしまえば、何かが変わってしまう。皆を助けたくて地を這って虚空夜叉になったのに、それをしてしまえば俺の今までが全て無題になってしまう。」
人を肉の塊にするには十分な威力を込めたナイフを避けた公正は、人が死なない程度にしては十分な威力を込めた超能力を使い、彼を気絶させるのだった。
「…偽善でも独善でもやると決めたからには貫き通すしかない。俺ァ1人でも貫き通してやる。」
やるせなさや虚しさが残る闘いは終わったのだった。
次に公正の目に写ったものは、怯える女子と原型を残していない男性だったもの。そして、その横で虚ろな目で笑っているイリイチであった。
「何があったんだ…。山下、サラ。」
「ァ……ァ…。」
涙目である彼女たちに反応は期待出来ない。しかし原因は直ぐに分かる。イリイチであろう。
「おい。イリイチ、しっかりしろ。反応。」
糸が切れた。そういうのが正しいのだろう。イリイチは倒れ込んだ。彼のスマートウォッチに表示されている危険信号が、この状態を端的に説明してくれる。
「リーコンだな…。人工脳髄で制御される放射線物質による鷲の羽根。その残量がブチ切れたのか。脳に少しでも誤差があれば第六感もろともイリイチは倒れ去る。って訳か…。」
電源を供給すれば再び立ち上がるだろう。詳しい話は後に2人が話してくれると思い、公正はもぬけの殻となった「創始真理会」総本部のある山へ、ヘリコプターを要請するのだった。




