OGRE BATTLE
「ほらァ!気張れよ!年寄りども!このままじゃあ、頑張って積み重ねたもんが全て壊されちまうぞォ!?」
誰もイリイチに近寄れない。近寄ることを許さない。近寄れば木っ端微塵に粉砕されてしまう。これでは人喰い鬼がどちらかなのか分からないほどに、一方的な虐殺劇は続いていく。
「…おい。何お寝んねしてんだ?こっちはまだ1ミリと傷ついちゃいないぞ?ん?意思の送受信も第六感の先鋭化も使っちゃいないぞ?それともなければ…。これは前座なのかな?」
軽機関銃が人間もどきの頭を綺麗に撃ち抜き、制限時間を吟味した上で威力を弱めている黒鷲の羽根が死に損ないの胴体を貫く。無自覚の内に自分の意思に制限を掛けていた彼の本性は、圧倒的な暴力によって相手を屈服させるためだけの獣である。人間らしい感情を僅かにも残していれば、彼の前に敵として立つことは出来ない。
「ヘェ……。メディック、こっちに人質たちがいる。加工して美味しく頂こうとしてたんだろうが…。全員治療してやれ。」
一応作戦の主眼の1つでもある攫われた若い人間の解放と治療に、サラは適役なようだ。身体的な外傷や内傷だけではなく、自然と心的外傷にも対応したのか、絶望に侵された彼らの意思が、人間臭い意思へと変貌していく。
「…公正。こっちは片付いたようだ。そちらは?…は?なn…!」
電話口から感じる間もなく、新たなる人喰い鬼が向かってくるのを察知する。それらは、サラを撃ち抜き、そして赤く染った糸のような物がイリイチを襲いに掛かった。
「…!?」
避けることには難はない。雑作もなく彼は彼らしく舞う。ただ、彼に向いた注意はその超能力であった。不明距離から放たれる殺意の込められた鋼鉄線。赤黒い体液を流しながら、必死の思いで自己再生をしているサラと、眼前に起きている事態に集中が追いつかない人質に被害が及ばないようにしなくてはならない。
「厄介な超能力手に入れやがって…。ついこないだまで死にかけだったジジィかババァかは知んねェが、この惨劇を鑑賞しても向かってくるってことはよォ…!」
腕時計に示された制限時間は20分。出力は最低。第六感によって位置を割り出すと、出力を高めたイリイチは、敵性意思の壊滅に向けて空中を蹴り続ける。
「ちったァやるってことだよなァ!アァ!?」
過大な超能力は何時でも自身を滅ぼす。興奮して自我を失っているように見えるイリイチは、実際の所勝ちへの筋道を既に走っているし、相手の敵性、もはや人であることに耐えきれないのか、不死のために人すら捨てたのか、それともなくては自ら進んで修羅の道に舵を切ったのか。
「ァァァァゴガカガガ!」
「取って付けたような超能力に頼るからそうなんだよ。なァ!」
右手に満身の出力を込めて放たれた握り拳が、彼たちが四苦八苦しながら掴んできたなにかを壊した。
下層戦闘員は壊滅状態に陥り、教祖を守る護衛兼幹部以外には誰も残されていない。OgreBattleは、開幕することなく終幕を迎えようとしていた。




