楽じゃあない。
「ゲームの内容がわかった。俺たち3人、イリイチ、大智、そして、俺リーコン、合わせて懸賞金がかけられている。3人生け捕りで1000万円だ。」
「首謀者は誰かわかるか?」
「わからないな。情報アクセス権がない。ただ分かるのは、このことは一般生徒にも知られているってことだけだ。」
「了解。」
通話を終了させると、イリイチは周りを見渡し、ゲームはまだ始まったばかりだということを認識する。
「今日は食い放題だ。遊んでいこう。」
ゲームの参加者たちと、戯れているのであった。
そして3時間は過ぎたであろう時には、2人の体力は流石に落ちつつあった。
「煙草は体に悪ぃな。息切れが止まらねぇよ。」
「それだべ。まぁ、止めれないんだがな。」
2人のやったことは、喧嘩だった。プロの殺し屋と町一番のヤンキーにとっては確かに食い放題だった。そして学生証も回収しておく。成都の多いこの学校では、そもそも生徒全員を把握することなんて不可能だ。一人づつ丁寧に素早く把握して行くことによって、最後に残った奴が黒幕であると古典的な手段で解決に取り組む。
「粗方片付いたか。家帰るべ。」
数えきれないほどの人の山を放っておき、彼らは家路に着くのだった。
リーコンの家。大地とイリイチの寮とはまた別のところにある部屋に着く。
サーバーが置かれている。スーパーコンピュータだと思うほどに、彼の部屋は電子器具だらけであった。
「ただいま。リーコン。なんか進展があったか?」
「あるにはあるが…まずは飯でも食おう。」
「賛成だね。腹減った。」
電子器具の量と反比例するかのように、それ以外の生活必需品がまるでないこの部屋では自ずとカップラーメンぐらいしか食べるものがない。
少年3人はカップラーメンを啜りながら、何となく昔話をし始める。
「そういや地元の奴ら元気かな…。宇野は年少から出たのだろうか。隼人は今どこにいるのかな。」
「大智、君の地元って…」
「お前の思っている通りのところだ。治安の悪さは神奈川県第1位。ゴーストタウンに間違われる程に終わっている街さ。」
「でもな…俺は結構好きだったぜ。何も無いが人はいる。まぁもう友達はみんな堀の中か、バックれたか、あるいは死んでるかのどれかだがな。」
イリイチには馴染みのない話だ。日本生まれでもなく日本育ちでもない。教官しようにも共感しようがない。
「あ、今思い出したんだが、この学校にも地元の先輩がいるわ。武蔵先輩だ。怖い人だったよ。中坊のとき詰められたことがあってな。もう二度と会いたくないと思っていたが、この学校にいるのか…。」
「俺たちより学年が上で武蔵と言ったら1人しかいない。濱口武蔵。学園全体2位のバケモンだ。生徒会会長代理でもある。」
「流石は生徒会役員様だな。いや、内務委員長だからかな。」
濱口武蔵。日本に12校ある学園においても、最高クラスの市場価値を持つ、泣く子がもっと泣くバケモン中のバケモンだ。
「まぁ、ゲームの首謀者探しのゲームを楽しんでくるよ。」
リーコンはそのまま、大量のモニターの前に消えていった。大智と二人きりになる。
「学生証でも数えるか。大智、お前もやれ。」
「相当だな。1000枚はあるぞ。」
「喧嘩黒帯は辛いな。強いっていうのも楽じゃあない。」
古典的な手法の古典的なところは、なによりも面倒臭いことだ。意地で数えるしかない。
「なんでも効率化の時代だ。こういうこともそう悪かぁねぇ。」
しかし見てみると、学年はバラバラだ。1年、2年、3年、中等部のヤツらが居ないのが救いだ。
「男ばっかだな…。このゲームは男子限定なのか?女性差別になっちまうぞ。」
今朝ぶっ倒れたヤツらの情報はリーコンが持っている。そしてこれを併せれば、かなり絞れてくる。
「おいおい、これもうほぼ絞れてるじゃねぇか。」
「千人斬りは無駄じゃあなかったな。ゲームクリアまでもう少しだ。」
一仕事終えて、灰皿のまえで煙草から紫煙をくゆらせたのならば、案外答えは近くにいたのであった。
「情報で勝つ。学園ネットワークに侵入した。懸賞金を出している生徒は架空の人物だ。それを作り出したのは…」
「あいつら結構やるじゃないか。楽しくなってきたな武蔵。」
「そうだな。義経くん。たまには後輩とも遊ばなきゃな。」
「さぁ、ゲームは佳境に入る。参加は自由。楽しい友だちを連れてきてくれ。」
7月に入ろうとしている学園は、暑さとともに新しい熱気がやってくる。




