自由気まま
「んで、いつになったら翔はくるのよ?普通こういうのって時間に余裕を持ってやることなんじゃなあないの?もう帰っていい?」
「落ち着け神里。生徒会の連中に愚痴ってもしゃあねェだろ。気長に待とうぜ。つかこのコーヒー上手いな。お代わり。」
「なんでスバルは参加できないのよ?さっきからあの会長に睨み殺されそうなんだけど。というか目が合うたびに舌打ちしてくるんだけど。なんなのよ。」
時刻は14時を回った。自由気ままに生きている最強格の超能力者たちには、あまりにも無意味であまりにも茶番である円卓に長居する理由もなく、ましてや会議が始まらないまま帰る可能性すらある。
「ほんとに…。灰皿はないの?」
「本部は全室禁煙となっており…。」
「あと5秒以内に誰も来なかったら勝手に吸うわ。…来ないわね。じゃ。」
途端にメンソール煙草特有の臭いが会議室に蔓延する。海里が喫煙者であることはあまり知られていないようで、公正は少し面をくらった様子だった。
「煙草を吸うなんて意外だな。」
「そう?この学園って案外喫煙率高いわよ。むしろあんたは吸わないの?」
「付き合いならたまに吸う程度だな。」
そう言い切ると、ボックスからせり出したカプセル付きのタール8ミリメンソール煙草を差し出してきた。付き合いであれば吸うということは、つまり今吸うということなのだ。
「ん。ありがとう。」
火を入れ込むと、紫煙は空を羽ばたく。所謂肺喫煙をしている公正を見て、海里も損をした気にもならない。
「あんたも吸う?山下…だよね?」
「え、じ、じゃあ貰うわ。」
押しには弱いようだ。今まで1度も煙草を咥えたことのない綺麗な唇を汚すように、恐る恐る火を付ける。勢いよく上がってくる煙に噎せ返りそうになるものの、それをなんとか押さえ込んだ。
「翔が着いたみたい…。って、何当たり前のように煙草吸ってんのよ?全席禁煙なの知らないの?」
「そうカッカしないでよ。ほら、1本あげるから。」
「私は正真正銘吸わないわ。というか今すぐ消しなさいよ。」
うわの空のまま、目を逸らし煙草を飲む。もはや呆れてものも言いたくないであろう美咲は、コーヒー缶を灰皿代わりにする彼らを無視することにした。
「いやァ!悪ィ悪ィ!徹夜でゲームしててよ。起きたら1時半過ぎてたわ!…ん?ここ煙草おっけーなの?」
「……生徒会本部のすぐ横に喫煙所があるから、そこ行って吸って。大体高校生の校舎に喫煙所があるのがおかしいのよ……って!人の話を聞きなさいっての!」
翔はこの部屋に入って1秒もしないうちに、煙草の臭いに気がついていた。その理屈を捏ねて、入って3秒後にはラークを取り出していたのだった。
「あ、悪い。つか、イリイチはまだなん?」
「……あいつのSNSのアカウントを見て。」
ツイートの回数の割にはフォロワー数の多い彼のアカウントには、わざわざ東京の渋谷まで服や靴を買いに行った呟きがあった。その時刻が1時45分。物理的に間に合わせるつもりがないようだ。
「うわ、なんだこのトゲトゲスニーカー。というか買ったもの全般が無駄に高い。そして無駄に写真の撮り方が上手い。」
成金の極みのような格好である。そして、公正に送られてきたメッセージは、かの自由人の集まりである超能力者開発指数段階4をも唸らせるものだった。
「悪いねてた今から向かう 14:20」
予定時刻は13時30分である。
この人たち頭おかしい…。




