取引
「結局、真相は遠いなァ…。」
天と地の狭間には、未成年でありながらSNSに向けて今どきの子どものお小遣いでは厳しい金額の煙草をフカした動画や、度数3%の半分ジュースのような酒を載せている中学生は数しれず存在する。その応用として、学園横浜をエゴサーチにかけて、怪しげな者を見つけ出す。昴がこの2日行ったことはそれだけであった。
「末端のバカどもを捕まえんのは簡単だけど…。この規模だと、上の上、更に上…。上位層になればそう口は割らないだろな。いや、とりあえず突撃してみっか。」
見ようものであれば、これもまた多種多様に溢れた薬物の羅列である。マリファナこと大麻からコカイン、LSD、覚せい剤、最悪の薬物と名高いヘロイン、それをも上回ると言われるデソモルヒネ「クロコダイル」まで取り合われていると見た時には、裏の世界には当然詳しくもない昴の驚愕の声が上がる。
「これもう学生が手に入れられるもんじゃないだろ。」
1度深い溜息をつくと、思い立ったのか、犯罪履歴が横浜スタジアム収容人数よりも多い男に頼る決意を下す。彼が利益に繋がらないことをやるような、酔狂な人間ではないことを承知した上で。
「イリイチ 少し会わないか?話したいことがあるんだ」
中々既読が着かない。昴の考えが正しければ、関東最大の暴力団の首根っこを掴める大好機が巡ってきている。しかし、それを実現するには彼の力は欠かせない。そして優希に投げられた匙を、昴が拾ったとなれば彼の地位も脅かされる。最悪の事態を避けて、自分たちの存在意義を高く挙げて見せる。千載一遇の時なのだ。
「いいよ 中央近くの喫茶店に来い お前のやろうとしてる事はわかってる」
生徒会も決して一枚岩ではない。美咲の私怨と利害が混ざった命令に、イリイチ、大智、リーコンの利害と利益が丁度組み合っていないのだ。
「そういうこった。会長さんの冷徹さは昔よりも遥かに強くなっている。あの人ゴミ掃除をお前ら2人にやらせよォとしたんだよ。失礼だが…山下には学園横浜で薬物取引を仕切ってるバカの特定も出来ねェだろうしな。そこでお前、スバルが働く。」
「そして、この問題の根幹は裏社会の連中であることに気がつく。そしてその組織は関東最大、いや、日本最大、いやいや、世界最大の地下組織であると気がつく。」
世界には数多の裏組織が存在する。だが、それらの大半は大手を切って看板を見せびらかすことはない。メキシコやフィリピンの裏組織であろうと、表向きだけでもトップの名前が明かされることはない。
暴力団、ヤクザ、極道、言い方は人それぞれではあるが、ここまで開かれた表の世界で知られた裏組織は例を見ないであろう。
「んで…。それを乗っ取る、あるいは…潰してしまう。そうしてしまえばここの生徒会だろうとイチャモンをつけることは出来ない。」
「……手伝ってくれるのか?」
「条件付きでな。」
そこから先は、宗教を麻薬だと断言する者の独壇場である。横浜から流出した技術を好き放題に利用して、信者を増やし、挙句の果てには国家転覆を企んでいるという話すら流れる、もはや宗教とは言えないテロ集団に対する破防行為であった。
「創始真理会、推定信者数10,000人。その内、人工的に超能力者となった者が1,000人。自動小銃、毒ガス、その他無差別殺人兵器製造疑惑あり。愛と平和と自由のためにこいつらと闘ってくれるなら…。な?」
超能力者軍隊の手を煩わせる間でもない問題を解決する義務を押し付けられた「国立指定」学園横浜は、順調に兵隊を用意しつつあった。




