無闇矢鱈
弱みを握られた人間というものは、無闇矢鱈な命令を忠実に行わなくてはならない。学園横浜の超能力者として正しさを証明しなくてはならない。
「勘弁願いたいもんだなァ…。こんな抽象的な命令をどうしろってんだ。」
PKDI:RANK4第8位、山下優希に巡ってきた仕事は、しっかりと彼女の危機に対して敏感であった。現在、学園横浜に蔓延する薬物取引を取り仕切る生徒、或いは、その組織を見つけ出し、壊滅、または、生け捕り。超能力という観念において上位層にくい込んでいる優希は、それ以外に取り柄らしい取り柄もない愚図であるという評価を受けていた。その評価は、横浜駅周辺での超能力使用による揺るぎないものとなってしまう。
「なんとかならない…?1ヶ月以内に解決を示さないと退学になるって…。」
「退学になればこの超能力者学園の誰かがゆうちゃんを殺しにくる。RANK4ってのはそれだけ危険因子として扱われてるんだ…。」
優希を叩き潰したい者による恣意的な注文であることは明らかである。今現時点では、PKDI:RANK4に指定されている彼女を消すことは出来ない。学園横浜公式から、PKDI:RANK4に設定された生徒の名前が3人消えたからだ。更にもう1人をこじつけで消すことは困難。退学にするにもそれなりの理由が必要。昴の考えは当たっている。
「まず、薬物取引は事実だろな。たまに異常なまでにテンションの高いヤツらを見る。そいつらがキメてる可能性は高い。そして、なぜこんな無理難題を押し付けてきたのか。推測になるけど、ゆうちゃんに罪を着させて退学の上、公式から消してしまおうとしている。使えるものは使って、使えないのなら捨ててしまう。いや、捨てるよりも遥かに酷いな。」
「えっっ!それじゃあ…。」
「ただ…。生徒会の連中に使える存在だと認めさせれば生き延びるどころかVIP待遇になると思う。アイツらはそういうヤツらだから。」
生徒会会長、基、美咲も感情のみで動くような女ではない。自分の大好きな未来に手を出され、その場で殺しても殺したりない程度に殺意を覚え、結局この学園横浜の法律である強者、イリイチの一声で処分を下せない。怒りの感情だけで仕事を投げ渡したように考えるのが正常ではあるが、そこは彼女の強かさが強いのだろう。
「要するに、この件を華麗に終わらせれば罷免されることはない。逆に落ち度が高ければ、俺ごと処分されるだろォな。」
「えっ。そ、そんな件に関わる必要なんてないわよスバル。あんたはあんたの生活があるでしょ?」
事の重要性に気がついた優希は、まさか唯一無二の幼なじみにして親友を大惨事に巻き込む訳には行かない。だからと言えど自力での解決は不可能ではあることも同時に分かっている。
「なァに言ってんだよ。幼なじみなんだから、こういう時にこそ頼ってくれよ。」
唯一無二の幼なじみにして長年片思い中の男は、健気な彼女の慌てふためく態度を落ち着かせるために、動き始めたのだった。
 




