序列第2位 VS 序列第1位
時間が止まったようだった。海里の左手の上においては。名前と顔ぐらいは知っている学園横浜序列第1位そのものが、因果に導かれるように、彼女を救いに来たようだった。
「翔、お前には関係の無い話だ。この女を助けて何になる?」
「さぁな?ただ…大の男が寄って集って女を暴行するなんて、まるで強姦だ。それを黙って見逃すほど俺は腐っちゃあいない。」
「そうか。」
生返事とは対照的に、脚の力を増やしていく。一瞬だけ翔の力が抜けると、真っ直ぐに左手を粉砕しようと落ちていく。だが、その行為は余すことの無い握り拳が阻止するのだった。
「泥臭い殴り合いがご要望か?」
イリイチは全く応えていない。寒気がするような頑強な身体に、翔は臆することなく向かっていく。
「単純な殴り合いなら俺に勝てる訳がないってこの前教えたはずだよなァ!」
逆上させるための煽り文ではない。華奢と言っても過言ではない細身の翔と、17歳というには完成された肉体を持つイリイチでは天と地の差がある。わかり切ったことだった。
「それはどうかな?」
暴風は強大となり、肉の一欠片も残さない。海里からある程度距離を取るのを狙いとした突撃だったのだ。シックス・センスにより意思を感知出来ない彼にしか出来ない芸当である。
「そのままロシアに帰れや!」
イリイチを捉えた暴風は勢いが途切れることなく、大空をさ迷うだろう。外道が欠片も見えなくなる。
「これぐらいで死ぬようなヤツではない。が、当分は戻ってこないだろうな。」
海里は困惑していた。見ず知らずの自分を助けるために序列第1位が走ってきたのだ。それでいて、煙草を吸いながら、暗い空を見上げる男には近寄り難い雰囲気が漂う。全てが不明瞭だった。
「あの…。何故助けたの?」
あたりをはばかるような小声で翔に話しかける。少し反応が遅れたようにも見えたが、答える時の彼は優しい顔つきだった。
「女に暴力振るうような外道は許して置けないからな。理由があって最小限ならともかく、明らかにアイツは楽しんでいた。別に正義のヒーローを気取ろうって訳じゃあないが、ま、気まぐれなのかね。多分。」
感謝を伝えなくては。そう思い「ありがとう」とだけでも言おうとした瞬間、黒い鷲のような羽根がイリイチを包み込み、朱を帯びた眼が臨戦態勢であることを告げる。絶えず笑顔である男の顔は、翔との闘いを心から楽しむようだった。
「やるじゃねェか!翔!やっぱお前は俺より強いぜ|!」
「ほざけ!ぶっ壊してやんよ!」
暴風の勢いは学園横浜をそのまま廃墟にしてしまう程まで膨れ上がった。全てをイリイチにぶつけるにしても、多少の誤差で大量虐殺を完遂してしまうような剣呑なものだ。
「シックス・センスの意思改竄が早いか、全てをぶっ壊す暴風が飲み込み尽くすか…。勝負は直ぐに決まるな…!」
歓喜に踊るイリイチが、我を忘れる寸前まで超能力を組み合わす翔が、互いの力を使い果たす覚悟でぶつかり合う。
「終わりだァ!楽にしてやるよ2人ともォ!」
本日学園横浜で観測された地震は、不思議なことに、学園横浜及びその周辺以外には一切観測されなかった。震度6に相当する震動に驚いた後に、震度7を越える勢いの爆発的震動が観測されたのだった。




