思いは重いし想いは…
「しかしよォ、分からねェな。俺はお前に何かしたか?あのバカどもに吹き込まれた訳じゃああるめェし。」
暴行をひとたび終わらせると、イリイチによる事情聴取が始まる。この会話の結果がどうなろうと彼女の命運は既に尽きている。しかし彼女の目付きは未だ鋭い。なにやら遺恨が詰まってそうだ。
「今年の4月…あんたが入学した途端に…私の大好きだった先輩が…誰かに殺された…。その犯人は…。」
「俺とでも言うのか?状況証拠だけじゃあ犯人は決まらねェぜ?」
よくもここまで顔色1つ変えずに嘘を吐けるものだ。殺人中毒者である正真の精神異常者に、ほんの少しでも罪悪感というものは存在しない。
「…嘘つき。」
もはや死せるだけの存在と化した海里の口調はより強さを増す。それを嘲笑うようなイリイチの表情は加虐嗜好なものへ変化していく。
「ま、嘘かもしんねェな。でもよ…。」
地面に横たわり、動くこともままならない彼女の右腕を勢いよく踏みつける。悲鳴を上げるのを辛うじて堪えた顔を見れば、それは快楽そのものなのだ。
「ここで死んで水になって海に流れて浄化されれば、そういう苦しみからは解放されんぜ?なァ?」
顔の形を変えてしまえば意味もなくなる。あえて首から上には一切の攻撃を加えていない。踏みつけた腕にかかる力を増やし、爽快感溢れる音を鳴らし、骨と肉を繋げる部品が取れたのだった。
「どうだ?諦めるか?俺が受け取った命令は脳だけ回収しろ、だけどよォ、屈服して足でも舐めるってんなら…学園横浜から逃がしてやるよ…。」
真っ赤な嘘を平然と吐き捨てる。PKDI:RANK4生徒の半分を粛清する計画にイリイチは全く関与していない。その場しのぎで乗り越えようとする生徒会に対する嫌味のようだった。
「どうする?生命あってこその人生だ。俺がお前の立場なら…足でもケツでも舐めて生き延びてやっけどな?」
少し間を置いた海里は、強がりにしかなりはしない笑顔をイリイチに見せ、唾を彼の顔に吐く。誇りを持って死ぬ腹積もりだ。
「誰が…あんたの足を…舐めると…思ってんの…!くたばれ…サイコパス…!」
「いいねェ!ホレちゃいそうだぜ!」
より一層の笑顔が光り輝く。イリイチは忘れているのだろうか。彼が学園横浜に入ってからの経緯を。超能力者相手の暗殺を実験を兼ねて受けたことも、それが原因となりアーサー率いるチェーカーに追われたことも、そして唯一彼に匹敵、或いは、彼を超える存在がこの学園に1人居ることを。
「次は左腕だ。指もやっちまおうか…!」
左手を木っ端微塵にすべくイリイチの右脚が振り下ろされたその時だった。
「……おいおい。お前の出る幕か?」
脚を脚で止められ、目の前の男の表情は怒りに満ちているようだった。
「あァ、出る幕だな。ほんとはもっと早く来るべきだった。女々しく部屋で人生を振り返るよりもやるべき事があることを忘れていたよ…!」
悩みを吹き飛ばす、いや、悩んでいる暇は存在しない。その確信を持った学園横浜最強の男の意思は硬い。




