The War To End War
「そりゃお前、人生で1番危機を感じた4日間だったよ。あの野郎をぶちのめしてヤりてェが…もう始末はつけたのか。」
臨死経験を成し遂げた様子のイリイチは饒舌だった。そしてリーコンと大智の活躍にご満悦でもあった。
「そういやイリーナはどこよ?今度あいつのために家を買おうと思ってんだほんとに。この学園のセキリュティに文句の1つでもつけてやりてェ。つうかメッセージ送っても返信が来ない。お前ら心当たりある?」
「……言うか言うまいか迷っていたが、まァ兄なら知っておくべきだな。」
重苦しい口調から察した様子のイリイチだった。そして、語られる事実はやはりか、という反応を見せた。
「シックス・センスの暴走か…。じゃあ今頃は爆睡してるかな。前々から才能は俺を凌駕していると思っていたが…そこまでとはな。」
康太の実力はイリイチも理解している。脳が万全では無いとはいえ、後一歩の所まで追い詰められたからだ。少なくともこの学園横浜の超能力者で彼に圧勝できる存在はいない。その認識をアップデートされたようだった。
「ま、それはこの際置いておこう。イリイチ、お前を付け狙っていたRANK4もあと1人だけだ。本校に酔心していた野郎は死んで、快楽主義者は快楽を求めすぎて自殺し、これまた本校大好きな野郎は行方不明。最後の1人は因縁の…。」
「学園横浜最強の女。神里海里だな。」
「彼女は何を知って何を知らないのか俺たちも把握出来ていない。だが、アルファベットどもは常時増産をかけられている。もうスコアは2000を越えた。シックス・センスに対する耐性も着いている可能性が高い。」
「そいつの居場所が分かれば今すぐにでもケリをつける。あの時の油断もあの時の偽物シックス・センスももうない。あのアーサーですら適わなかったこの俺を倒せる学園横浜の生徒がいるとも思えないしな…。」
事実の羅列だった。唯一動機が不明であること以外、有象無象のそれとの変わりはない。イリイチの勝機は高かった。
「マグネターの即死技で死ぬ寸前まで追い込まれて、それをなんとかしたら閉鎖空間にぶち込まれて、結局戦闘員になって欲しくなかった妹が闘うハメになった。怒らない方がどうかしてる。」
それでいて珍しく苛立ちを見せていた。普段の人を喰ったような笑いが消えている。その瞬間に感知した情報を元にイリイチは動き始める。
「イリーナと若葉を拉致して俺を呼び出そうってか?舐めやがって…。ちょっと行ってくるわ。」
恐ろしい力だ。彼の居場所から遥か遠く、数キロメートルは離れた場所の意思を汲み取ったのだ。スマートウォッチに表示された制限時間と共に、黒鷲の高貴なる羽根が彼の背中に生える。苦しみ蠢く病院を飛び出し、彼は空を舞う。
「いいねェ!空を飛ぶってのは!人類の満願が成就したんだ!」
誰も止めることの出来ることが出来ず、止める道理もない無法者のための夜が乱舞しながらうねり出す。
「……ようやく来たわね。」
満願成就の思いを浮かべ、海里は血潮を上げていく。




