侵入禁止
「全く、武功を焦るからそうなるんだよ。シックス・センスなんてバカバカしいものをマジになって潰そうだなんて…。自信だけは一流だなァ。」
閉鎖空間を作り上げた犯人は呆れ口調だった。誰も知らない誰も来ない場所で勝手に餓死でもしてくれるというのに。もっとも、「イリイチの居場所」は推測によって割り出したリーコンと大智、そして彼以外は誰も知らないのだが。
万が一に備えて学園横浜が放棄した廃校舎に身を潜めていることも功を成し、彼の居場所は未だに突き詰められていない。これは生徒会が血眼になって探していることや、金による密告が蔓延っていることを吟味すると、恐ろしい程に上手くやっていると言わざるを得ない。
だが、その蜜月期も終結を迎えつつあった。
「…!」
明らかな捨てアカウントから送られてきた写真はとても見覚えのあるものだった。状況判断が追いつかない中、掛かってきた電話の名前で目が覚めるような思いを起こす。
「元気かなァ!学園横浜序列第6位様よォ!お前さァ、さっき送られてきた写真に見覚えあるよなァ?」
「……家族に手を出すつもりか?外道め。」
「お!ビンゴだ!やったなリーコン!自分から喋ってくれたぞ!」
携帯を持つ手が震える。先程の写真は罠だったのだ。リーコンと大智はあの家族が阪浩の家族だと確信を持っていなかった。勢いづいた2人による集中砲火が始まる。
「いいねェ。テメェの手を汚さずに美味しい所ばっか持ってく…。だったよな?そいつはいけねェ。いけねェからいけねェ。」
「…おい。家族は関係ねェだろうが?」
「それしか言えねェのか?あ?関係なくはねェ。今から1分以内に現在地を送り込め。家族を現代芸術にはされたくねェだろ根暗野郎。一応言っておくが…。脅しじゃあねェからな?ガキの粗相は親に払わせるのが常識ってもんだ。どうした?もっと具体的に処遇を話してやろォか?」
電話を切り、叩きつけようとした。だが叩きつけて壊してしまえば位置情報は送れない。送らなければ家族が生贄となる。手で地面を何度も叩きながら発狂のような嗚咽を漏らすしか無かった。
「っっくそがァ!なんで!俺が!あんな!茶坊主どもに!舐められなきゃならねェんだよ!」
再び携帯が鳴れば、更に具体的な情報が漏れていることを堂々と叩きつけれられる。実家の住所に姉の職場、弟の小学校。
「いい家族じゃないか 思い出に変えちまうには惜しいんじゃね?笑」
晒された情報からすれば、あの2人は本当に消しにかかるだろう。軽い文面のメッセージからもそれが感じ取れるようだった。
「…っクソが。」
実質的な無条件降伏を飲むように現在地情報をオンにする。送られてくる派遣員が彼らだとして、それを閉鎖空間に放り込んでも他の生徒会が家族を潰す。人一倍「閉鎖」に敏感だった男は、家族との繋がりを閉鎖することは出来なかったのだ。
「遊びに来たぜクソ野郎!」
遠くから聞こえた声と共に鈍い痛みが彼を襲う。遥か格下だと思っていた生徒会No.2による蹴りは、想像の遥かに痛いものだった。




