愚図
「典型的な愚図なんだろうな。俺は。」
散発的に変な言葉が出てくる。昔からの習慣なのかもしれない。学園横浜に入学してからおよそ1年。堕落した生活は、普段の惚けた性格を強調させる。
「人間の価値というのは誰が決めたんだろうな。少なくともこの学園横浜に居る限り、俺の価値は途方もないほどに釣り上がる。でもそれは本当に価値なのか?ぶっ壊してそのままの俺に価値はあるのか?それが皆の求めていることなのか?」
自分の存在意義に対する反証は、なぜだか自分の頭から大量に噴出する。こういう憂鬱な日はいくらでも越してきたが、それでも逃げることの出来ない証明なのだろう。そしてこういう日には決まって煙草の本数が増える。
「学園横浜序列第1位。万物を破壊すると書いてオールブレイカー。それともなければクラッシャー?どちらにせよどうしようもねェ超能力だな。本当に下らねェ。」
少なくとも彼が自分の超能力を認知したのは中学生の頃まで遡る。どこにでも居ると謙遜するのが嫌味になるほどには恵まれた環境と恵まれた才能を持った少年であった。致命的なほどに出来ない勉強を除けば。
「そういや中二の頃に、このままじゃ県内最底辺公立も入れねェって先生と親に泣き付かれたな…。内申が不登校の野郎にすら負けてさすがに焦ったな…。」
乾き切った笑いが部屋を駆け巡る。8科目の評価が5段階中の1、得意分野の体育ですら温情込みで2。そこまで進んでも勉強はまるでしなかったのだ。
「中三にもなると周りにヤンチャな野郎が増えたな…。中三デビューってか。ま、俺もその枠に入るのかな。」
何もかもがいい加減な少年だった。色々な趣味は転がっているが、全てを極めようと1度は思い、そして飽きて半端に終わる。その分友だちは多くなるが。
「イキっている野郎が絡んできたことは数しれず。その火の粉が飛んできたことも同上。そのお陰で超能力に目覚めたんだかな…。」
高等部からの編入生徒は例外なく一般社会において超能力を開花させている。その大小を問わずに刈り上げる「学園横浜」の目ざとさには目を配るものがあるのかもしれない。ただ、彼の場合は少し話が変わってくる。
作動してから停止するまでの記憶が一切ない、非常に珍しい対象であった。
「この仕事に着いてから20年以上経つがこんなのは初めてだ。人間ってのはどんなに強くても、自分と体格の似た人間に袋たたきにされれば何も出来ないものだ。だが、こいつは違う。逆に集団を1人づつ集団でボコしたような、そんな状態だ…。超能力を無自覚のうちに作動させている可能性が極めて高い。学園横浜なんてものはあまり良く思っていないが、こんな獣みたいな存在はあそこに入ったほうが利に繋がる。」
少し前の日本では、悪童に対する脅し文句として「サーカスに売られる」という言葉があった。それが今となれば「学園横浜に売られる」に変わっている始末だ。それほどまでに憎悪を集める悪の枢軸として認知されていたのだ。それを踏まえた上で、学園横浜に入ることを勧められる少年は、自分の神秘を知りたい心理と契約金に釣られる形で去年の4月、学園横浜の門を叩いた。
「万物を破壊することで頂点に立つ。間抜けな話だ。間抜けすぎて地元にも戻れねェし、親にも会えねェ。ああ。バカみてェ。」
異常な世界に溺れていく級友たちを、まるで変わらずに見ている以外に能のない自分は間抜けだと、そう自嘲した翔は、腹が鳴ったことでその考えを一旦遮断する。そのまま食べ物が無いことに観念し、そそくさとコンビニに向かうのだった。
文章の驚異的な中身の無さ…。一周まわって誇らしい…。




