第六感 VS RANK4:精神的外傷巻き戻し
「なるほどねェ。あれがイリーナ。もう1人のシックス・センス、その力は未知数、そして言い換えてしまえば未熟。付け入る隙はありそうだ。」
学園横浜中等部は義務教育という建前があるため、一般授業は必須とされている。兄の思いもあり、イリーナは週に5日、毎日6時間ほどの授業を受けていた。いい意味で兄に似ていない少女の成績は優秀であり、言語や肌の色の壁を乗り越えて、社交的な性格を身につけつつある。イリイチが振り込んでいる金は引き出し方が分からないため、全く使っていないが。
「どんな幼い子どもでも、精神的外傷は持っている。1人になるのを見計らって接触して回収しようか…。」
この純朴な少女を汚すべく動いた学園横浜高等部生徒は、本校の指令により横浜に潜り込み、横浜の最高司令官を一時的に再起不能に陥らせた。本校生徒会崩壊及び彼が心酔していたアーサーの死亡報告により、彼の為したことの意味はまるでなくなってしまったが、その復讐と言わんばかりだ。
高等部の生徒が中等部生徒が授業のために通う校舎の前にいるのはそう珍しいことではない。この学園の生徒は根本的に他者には無関心だ。自分ありきの世界に自分が主役としている。その内容がアカデミー賞並みなものも、ゴールデンラズベリー賞並みなものも。
「じゃね。」
イリーナはしばし会っていない兄に会いたいようだ。イリイチのやっていることは、あまり声を大にして言えることではないことを知っている少女は、一周まわってわざとでは無いかと思うぐらいに人気のない所でイリイチに電話をかけ始める。狙ってもいない大好機が走ってやってきたと嬉々として、イリーナの居場所に向かっていく。
「大チャンスだ。さっさとトラウマを見せてもらおうか…。」
至って単純なものだった。警戒心の薄いイリーナに詰め寄ることは非常に容易。心理をほじくり返すまでも呆気ないほどに簡単なものだった。
「………?」
人っ子一人通らない通行止めの道に居る2人の頭に謎が回る。本来なら走馬灯が頭に流れ込む時点になっても、イリーナは表情ひとつ変えない。
「……人の意思に踏み込むだなんて、よく分からないけど良くないよ?」
PKDI:RANK4、第7位、名前を聞けば恐れて逃げ回る者も少なくない。そんな彼の超能力の真髄を発揮しても、シックス・センスにはまるで響かない。
普段はあまり表情を変えることの無い可愛らしい少女に、生まれて初めてと言っても過言ではない怒りが出来上がる。
「効かないってことはないだr…!」
同時に感情は僅かな穴を生み出す。その隙を狙い侵入した少女の精神状態は狂気に満ちていた。シックス・センスは他人の意思を強く感じ取るものだ。他人の意思を集合させて作り上げたイリーナの意思は、逆に彼の精神的外傷を抉り始める。
「xああymjpm…scd」
言語能力を失うほどのその深層は、劣性遺伝により色素が抜けた碧眼の冷たい目の色が拍車をかける。電子器具が電源不良により強制的終了するように、脳と身体を繋げる器具が破損を起こし、彼は滑り落ちるように倒れ去った。
「……やっぱりイリイチが心配だなぁ。」
言葉では表せないイリーナの意思は、シックス・センスを介して異質性を持ちつつあった。兄がよからぬ者にまた狙われていることを勘づいた妹は、最前の氷のような碧眼とは真逆の普段通りの暖かみを持った目の色を帯びたのだった。




