支配構造
「26体の同志は、自我の取り合いのために死んでいく。自分の存在を証明するために。1秒でも1万年でも生き延びるために!素晴らしいことではないか…。」
狂喜乱舞の踊りは、イリイチとリーコンの性癖を満腹にさせる。イリイチがイリーナや若葉に見せる暖かな態度、リーコンが愛では語り尽くせない未来に見せる美しい誠実性、それとはかけ離れた彼らのもう1つの嗜好は、想像以上の速度で第1段階の欲求を満たす所まで来ていた。
「アルファからズールーまで。26体の生き残りはもう2人だけ。この時点においても学習機能は進歩しただろう?検算の結果からして、シックス・センス完全解放可能時間は120秒まで伸びる。基本的に倍々ゲームと思って構わない。」
「肝心なのは持続時間とタイムラグを限りなくいつからのシックス・センスに近づけることだ。まだまだモルモットは必要だなァ。」
イリイチという名前は、ソビエト連邦の偉大なる革命家を由来としたものだ。イリイチ、レーニンはよく笑う男だったと言う。元来の性格が起因となっているのか、それともなければ革命を成し遂げその後のソビエト連邦の苦難に四苦八苦する中にて精神を侵されていったのか。死してもなお遺体を晒されている共産主義国家における神の名前の1部を貰うだけに相応しい存在だ。と、リーコンは何が起きていても笑い飛ばす狂気の男の1部を理解した気でいた。
「高笑いはいつしても良いものだなァ。リーコン、モルモットどもの最後の生き残りは俺に通達してくれ。26体の成れの果ては見届けたいからな。」
「貴方がそれを望むなら、俺が拒む理由はどこにもない。」
もはや皇帝と忠臣だ。ロシアという国は強き皇帝をいつでも求めている。レーニンは神として祀られ、スターリンは赤い皇帝として、野蛮なファシスト、ナチス・ドイツとの大祖国戦争を勝ち抜いた。スラヴ人の語源は、英語の奴隷から来ているのだろうか、それともスラヴ人が語源となり奴隷という言葉ができたのだろうか。どちらにしても永き封建主義による大国ロシアの支配構造は共産主義であっても民主主義であってもそこまでの変わりを見せない。
「イリイチ、お前はやはりロシア人、スラヴ人だよ。本当に。」
「金髪で碧眼の外国人は珍しいからな?日本人、大和民族にはな?」
劣性遺伝子であるはずの脱色された金髪と蒼い眼は、見慣れたはずなのにより美しさを増したようだった。日本人が持つ白人に対するコンプレックスをとうの昔に捨て去ったつもりのリーコンですら、彼に圧倒されるような気分になってしまう。
「名誉白人なんて取ってつけたような称号をありがたがっているような民族なんざ、より強い民族に従属する運命なのさ。俺のくだらない考えだかな。」
日本人であることすらも自嘲するようなリーコンの口調だ。隣の芝生は青い。それを踏まえた上での自虐であった。
「…どこかの伍長みたいなことを言うもんじゃあない。俺たちは人間なんて括りには収まらない超能力者だ。俺たちをこき使っているお偉さんがたに一泡吹かせてやりたくねェのか?」
「上は上に、上の上はさらなる上に。その上は…。確かにそうだな。超能力者たいう異型な歪の存在を手足のように動かせると思い込んでいる連中を叩き潰してやろう。」
イリイチや翔、公正と言った学園横浜最上位の超能力者ですらあやつり人形に過ぎない。今頃暖かいところで、陰謀と欲望に塗れた学園横浜に蠢いている超能力者を眺めている連中に、自分が以下に無力な存在で生きるに値しないかを知らしめるために、彼らは今日も四苦八苦しながら藻掻く。
みんなァ…。ドイツ第三帝国とソビエト連邦…。どちらが上かな…?
 




