外法
「生け捕りだ!生け捕りだぞ!最高だ!」
昔からの習慣として、イリイチは仕事を成したあとはいつも感情が昂る。息も絶えつつある学園千葉からの客人は、今どこにいるのかも見えていないのだろう。好都合ではないかという意味合いの悪戯じみた笑顔を見せるリーコンは、息のかかった科学班の所へ彼を運ぶ。
「超能力者は脳内計算によって超能力を作動させる。それはつまり、脳だけ取り出すという行為に意味をつけるのさ。俺たちは悪趣味じゃあないからな。」
「そうだな。培養液に人の脳を漬けて楽しむような根暗とは違うのさ!俺たちは根明だからな!」
悪辣非道を苛烈に進む彼らの道は、その他大勢から見れば暗闇以外の何物でもない。しかし、彼らが見えている道は、自分の生き延びるための未来に溢れた暖かい道である。遠い昔に捨て去った論理は、今更取り戻すこともない。公式見解であった。
「ただし、気をつけろよイリイチ。科学班の根暗ども、俺の掌握していないヤツらはお前を付け狙っている。学園横浜に点在する化け物クラスの超能力者を焚き付けないとも限らない。」
「それは怖いなァ。もしシックス・センスが時間切れで、もし助けが来なくて、もし金鷲が俺を護らないとなれば、打つ手なしだ。やはり護衛は必然だな。」
驕る平家は久しからず、と言うのだろうか。イリイチの驕りはいつしか取り返しのつかない所まで到達するだろう。互角以上であったアーサーを曲がりなりにも自らの手で葬ったことが大きな原因だ。
増長の止まらないイリイチと、それを知った上であやつり人形にしようとしているのか、それともなくては安全保障のためにイリイチのシックス・センスは必須だと考えているのか曖昧なリーコンは、悪巧みを越えた背徳行為を躊躇なくこなした。彼らの哲学では、それは極めて正常なことなのだろう。
「何でもかんでも思い通りに行くと思うなよイリイチ!リーコン!手前らを潰すための鬼札なんざ、この学園には幾らでもあるんだからな!」
気に食わないことが気に食わない。そんな言葉が良く似合う、濁流の流れを無視した人はこの世には星の数ほどいるのだ。横浜の不穏分子か、本校の抵抗者たちか、イリイチの蛮行によって無様に殺された者のための復讐者か。利口とは思えない自殺志願であった「イリイチへの復讐」は、彼が復讐者を踏みにじれなくなる程に弱くなったことにより、現実味を増してくる。
「復讐は人生の華。そしてそれを笑って踏みにじるのは強者の華だ!」
まだ彼がロシアで外法により大金を生み出していた時に放った言葉だ。実力と警戒心に溢れた彼だからこそ、この大掛かりで剣呑な吐き捨てるようなセリフを軽々と言い捨てられたのだ。
「俺たちは友だちだからな。そうさ。俺たちは友だちだ。」
年寄りじみた、昔の彼なら笑い飛ばすような他人に縋る行為は、徐々に増えてきていた。答えの見えない無限に続く袋の中にて、今日もネズミたちは迷い続ける。




