学園千葉
きっとそれは必然なのだろう。横浜との生徒交換の会議はいよいよ詰めの段階に入ったことも。指導的地位を見せつけるかのように気前のいい接待が待っていることも。そして帰りの車にはなんの変哲もないはずだったことも。
「気がついたかい?千葉からの客人。俺が構えている拳銃はお前の頭を撃ち抜くことぐらいは容易く行える。」
バックミラーに映る男は、東アジア人、日本人とはかけ離れた透き通るような金髪と全てを見透かすような碧眼を持っていた。
「何が目的だ?こんなことをしてタダで…。」
「つまらねェことを言うもんじゃあない。俺はただ千葉まで送って欲しいだけだ。余計な考えを持ったら…。」
50口径のハンドガンは、この白人の迷いのなさを表すように冷たいものだった。だがそれと同時に無駄な行動が起きなければ、拳銃が火を噴くこともない。そんな考えを浮かべるような無機質な声質であった。
「あまり人を殺したくないものでね…。お利口さんにしてくれ。」
横浜から学園千葉まで2時間弱。僅かな歪みも見逃すことがない学園千葉防衛は、それを無意味なものにせんとばかりに、危険な超能力者の侵入を許したのであった。
「おつかれさまだ。ほらよ。」
9枚の1万円を1枚の1万円で巻いておく。口を止めるための金額にしては安すぎるが、最速で暗殺をこなせば、千葉に居る時間は1時間とない。彼が報告しても、気がつく前に抜け出す流れだ。
「じゃ…。行こうか…。」
艶のある黒のスーツ。暗めの赤色のネクタイ。標的の顔と名前は頭に入れてある。ヘッドセット付きのトランシーバーを耳につけ、雰囲気だけは出ている。
「どういうやり方でいくつもりだ?」
「野郎の居場所的に…。よし。」
ツキがある。そう確信してもおかしくない。草木も眠る丑三つ時に至っては、単独での行動は限りなく危険であることを幅広く知らせとくべきであった。リーコンの割り出した位置情報は、イリイチの現時点からそう遠くはない。少なくとも死体、あるいは、気絶した大の大人を運ぶのに苦労するような距離ではなかった。
「超能力を使われるととても厄介だ。いや、殺すのは困難になる。最低でも感知されずに無力化だ。」
大方夜出歩いていたのだろう。千鳥足で学園千葉の正門をくぐり抜けた標的は、少しでも注意すれば気がつけた脅威を気づくこともなく、永久に自由を喪失したのだ。
「じゃあな。」
サイレンサー付きの拳銃が、ターゲットの胸を貫く。相当のアルコールを入れてきたのか痛みに気がつくことなく、やはり千鳥足で数歩歩いたあと、電池が切れたように倒れ込んだ。
「横浜まで速攻で運んでこい。ほんとは空間移動を手配したかったが…。ことが事だからな。急げ。」
戦争の原因に確実性を加えるような蛮行だ。いくら横浜と千葉の力関係は離れているとはいえ、明らかに非がある行動を知られる訳にも行かない。この状態は、リーコンとイリイチのみが把握している状況である。
イリイチは哀れな誰かの車のカギを施錠する。そのまま閉まってしまうと再び横浜に向けて車は稼働した。




