無法者
「結局さ、誰が得したんだろうな。本校は当分介入不能に陥ったし、第2校に関しては校舎自体が崩壊。あそこの生徒を受け入れる役は恐らくウチか千葉か…。」
「誰が得したかなんてのは気にしないことさ。戦争ってのは当事者に得はあまりないものだ。2人のシックス・センスを守りきれただけでも上等じゃあないか。あの欲深いライミーも居なくなったしな。」
大智とリーコンは今回の問題を纏めるような話を続ける。人がいて超能力者がいる。だから戦争になる。という身も蓋もないような結論にたどり着くのはそう遠くはない。
「超能力者ってのはさ。誰もがみんな自分を特別だと思い込んでいる。そりゃそうさ。才能があるって誑かされて、学生には明らかに多過ぎる契約金を提示されて、能力の開発を続ければどんなに謙遜しているヤツだって調子に乗る。」
「ある意味そういう連中を粛清出来たと捉えることも出来る。身の程を弁えているヤツは、言ってしまえばなんの得もない一連の流れに参加しないさ。馬鹿ほど地元だ国だの煽りに乗るものさ。」
煙草の煙は空に上がっていく。忙しさを極めたこの1ヶ月は、彼らが普段の生活の素晴らしさを再認識するいい機会となった。
「そういや…。学園横浜に入ったのは高一の時だったな。超能力者学園って言うぐらいだからすげェ場所だと思っていたが、なんというか…。人間の限界を感じるよ。人が居て、欲望がある。だから歪みが生まれる。超能力者は単体で一個師団位の力を持つヤツもざらに居るから余計にな。」
「……。」
あえて何も返すことなく、リーコンは吸い終えた煙草を灰皿に投げ捨てる。その表情から感情予測が出来るほど賢くもない大智は、特に何もせずに続いて喫煙所から出ていった。
「イリイチ様のご帰投だ。雁首並べて敬礼しやがれ。」
自分の役目を理解しているというのだろうか。いつも狂気じみた笑顔が剥がれることのないロシア人は、超能力者非超能力者の区別なく有象無象にしか思っていない。欲望の果てに殺しがある。その殺人の代行人。彼が傲岸不遜に笑っていなければ、一体どこの誰が笑うことを許されるというのだろうか。
「なァ、やっぱりお前最高にイカれてるよ。」
垢がついたような言葉を投げかけられたイリイチは、その言葉を放った相手が侮蔑や憐れむ感情なくただただ評価する意味合いの表情であったことに満足げであった。
「殺し屋を助けようとして奔走していたお前には劣るよ。ありがとうな。盟友よ。」
凱旋するように帰還した「英雄」は、大智という「盟友」に対する人間くさい感謝を伝えた。外交儀礼としての言葉ではなく、シックス・センスから出た言葉でもなく、きっと彼の本心なのだろう。
「さぁてと、呑むぞお前ら!俺たち無法者の勝利を冠してな!」
「本校がなんだ!第2校がなんだ!イングランドが横浜がロシアが日本が!俺たちが無法者なのは勝つためだ!余計なしがらみに縛られてる連中に負けるわけがない!」
金と誠意があればどんなことでもこなす。イリイチの哲学は、極東の島国の超能力者学園の戦争に置いても通じたのだった。
次回新章!!(未定)




