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Keep Yourself Alive 第六感の場合  作者: 東山ルイ
グレート・ゲーム
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終戦

本校は滅び、第2校は消し飛び、横浜はこれ以上の戦力展開は困難。未来を考えればここで終戦にするのが利口なのだ。

「こちらイリイチ。アーサーは死んだ。本校生徒会会長は亡くなった。横浜から急いで救急車を飛ばしてこい。中等部生徒、水野若葉が重症だ。早く。」

酸素注入により言語能力を復活させたイリイチによる1報によって、学園横浜の勝利は確実なものとなった。第2校の崩壊により、マスコミは挙って報道合戦を繰り広げるであろう。超能力者学園に対していい感情を持っている者はそう多くはない。その上で「創成学園本校生徒会本部の惨状」を知られたくはないであろう学園上層部の意向に従ったイリイチの救急車要請であった。

「イリーナ…。少し無理し過ぎだ。俺を助けに来たのはそりゃ嬉しいけどよ。若葉を見てみろ。あのイングランド人の考えが少し違かったら、あいつは死んでんぞ。」

「別に…。若葉の方が乗り気だったし…。」

「いきなりガキみてェなこと言うなや。若葉は友だちだろ?友だちは大事にしねェと…。」

恐怖という感情が抜けているのだろうか。まるで少し家出した子どものような駄々を捏ねている。もしアーサーがもう少し非情だったら、間違いなく墓標に名前が刻まれていただろう。

「あの人のことはよく知らないけど、若葉やイリイチを殺そうとしているようには思えなかった。多分横浜にいる人の方がよっぽど怖いよ。」

あるいは、意思を強く感じ取り、アーサーが生命までは取りはしないことを察していたのだろうか。実際に彼はだれ1人として殺人をしていない。名誉や虚栄心に揺られてあっさりと殺人をこなす学園横浜の生徒の方が恐ろしいのは、シックス・センスという相手の深淵に向かう力と子どもの持つ鋭さから分かっているのかも知れない。

「ま、それは当たっているかもしんねェな。近いうちに横浜の寮を出て家でも買おうか。あそこの空気はあまりいいもんじゃあない。」

貯金残高を見てみれば、彼がイリーナのために家を買うのは必然だ。学園横浜の雰囲気に惑わされて、シックス・センスの暴発が起きないとも限らない。授業は受けさせるにしても、それ以上学園横浜に関わらせたくないのだ。

「…それはお兄ちゃんとしての感情?」

「今お前が思っている通りだ。」

シックス・センスを限定的にしか使えないのも痛い事案であった。イリイチのシックス・センスに適合するであろう演算力を持った脳やネットワークは存在しない。近い将来に解決しなくてはならない。

「ただ金鷲とはいいセンスじゃあないか。ロシア帝国の象徴。ローマ帝国の象徴。俺専用に作られたものなだけはある。」

翔のような暴風に近い現象を、危機が迫った時に限るが利用可能になったのはいいことであった。リーコンが彼を掌握するために制作を主導したものは、不思議なことに、彼の元上司を打破するために使われたのだ。

「大智くんが奔走してたし…。イリイチは感謝しなきゃダメだよ。あと、公正くんにも。」

イリイチの本音からすれば、手足程度にしか思っていなかった彼ら、つまりは自分の危機のときに奔走するほど酔狂な関係を作っていたとは思っていなかった「日本人の友人たち」は、確かにイリイチの生命を繋いだ。

「そうだな…。ん、迎えが来た。いくべ。」

成し遂げた男、打破されるのを受け入れた男、彼を護るために奔走した彼ら、利用するために奔走していた彼ら。

戦争は終わった。勝者は寛大に、敗者はそれを受け入れたことによって。

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