無謀
あるいは、それは、おそらくは。
頑張ったと言うから終わりという訳にもいかないのだ。2人の世界は混じり、それは歓喜に等しいものなのか、将来の破綻という虚しいものになるのか。
「苦しいか?それは苦しいだろうな。思えば、私はお前を倒すだけために布石を打ち続けてきた。もう1人のシックス・センスの確保。それを成し遂げるための超能力者の利用。横浜と本校の対立を生み出すための茶番。狼狽えたような私の表情。勝ち誇ったような高橋の顔。第2校の強行攻略。その後に起きた横浜の団結。そして今。今が全て。シックス・センス、いや、イリイチを打破するためのたった1度の機会。それに全てを捧げて、その一瞬のために…。」
なんとも物憂げな面持ちに、寂しげな語り口は、アーサーの将来がもう存在しないことを表していた。本校の物理的な壊滅状態や第2校の崩壊、駒を持っていない彼は、横浜との戦争には負けたのだ。
「大願成就の夜は終わり、残るものは私自身だけだ。私が造った陰謀は私が終わらせなくてはな。」
彼の復讐は、目の前に横たわっている、かつては恐怖の象徴、今となれば哀れな死せる豚、イリイチを打ち倒すことにより終わりを告げる。
「じゃあな。糞野郎。」
鎌を使い、首を削げ落とそうとした所で、アーサーが感じていた違和感の正体が現れる。血の繋がりというのは何処まで行こうが強い。たとえその関係は半年に満たないものであろうと。子どもの持つ無邪気な感性に限りなく近い無謀な考えにて行われたことであろうと。
「…あ?」
身長が160cmにも届いていない少女が持つには不相応である50口径の拳銃は、シックス・センスの補助によってアーサーの肩の細胞の1部を焼き払う。
「イリーナ!当たった!多分効いてる!」
「うん。早くイリイチを助けよう。」
咄嗟に2人の座標に向けて突撃していくアーサーを尻目に、空間移動が作動を起こし、イリーナと若葉は全く別の座標に立つ。
「…空間移動系超能力者か。10歳かそこいらのガキにしちゃやるじゃないか。」
だがそこが限界である。若葉の空間移動超能力は、才能は途方もないほどに高いものの、それを計算する脳が完成されていない。自分ともう1人を同時に空間移動させるには若干のタイムラグが発生する。獰猛に向かってくる金獅子の威圧感に少し恐れをなして、自分だけは座標変換を行ったが、イリーナの座標変換演算を同時にこなせなかったのだ。
「…なるほど。こいつがイリーナ。ご機嫌じゃねェか。学園横浜のプロスペクト第1位と第2位のお出ましか。」
「あなたが誰かなんて知らないけど、イリーナだってシックス・センス使えるからね?」
意思を掴み取ることにより、最小限の動きでアーサーの繰り出す攻撃を避けていく。1度でも当たれば即死確定の状況でも、まるで応えてはいない。
「若葉。イリイチのことを頼んだよ。」
「他人の心配してる場合か?クソガキがよォ!!」
金獅子と化したアーサーの欠点として、冷静さが失われるということがある。普段の紳士的な態度は消え、目の前にいる幼き少女を殺すためだけに攻撃の応酬を繰り返す。
「チェックメイトだ。クソガキども。おい!そこのガキ!珍しいものを見れんぞ!人が殺される瞬間だ!よォく見ておけ!」
奥まで追い詰められて、イリーナは何も出来ずに、アーサーによる慈悲なき虐殺を待つだけとなった。
「っ!イリーナァ!」
感情の爆発、それは状況を一変させる。死を待つというのに眉1つ動かさないイリーナの剣呑な態度は、若葉の超能力を一瞬だけ進化させる。
(観察)六感でロックオン




