学園長認可済 第1次6カ年計画始動
6カ年計画は認可された。表向きには生徒の持つ力を底上げするのが狙いだ。自由気ままに生きる生徒たちは実際のところ、なんの能力を持っているのかは本人と極一部しか知らないことは頻繁に見られる事態だ。それを是正するために、強制力をもつ生徒会決議として出し、学園長の認可を得た。生徒会のひとつ、能力研究委員会の発案だ。まだまだ解明されていないものにメスをいれ、科学力によって世界を変える。研究委員会の悲願でもあるし、斜陽国家日本国の意地でもある。世界を見てもこれほどまでに超能力者を抱えた国は中々ない。アメリカや中国、ドイツ、フランス、イギリスなどの世界の主役たる国々よりも更に多くの超能力者を持っているのだ。超能力者が実在すると公式に認められてから、およそ100年。また新しい時代を作っていくのだろう。
「この計画において目玉になるのは3人上げられますな。まずは、学園史上最高額にて入学した第六感を操る天才、イリイチ。同じく最高額で入学した、破壊の代行者、鈴木翔。そして例の彼女…」
「その彼女とやらは、彼らに並ぶほどのものなのかね?」
「はっきり言いましょう。現時点では劣ります。とは言っても彼らが別格なだけであり、少なくとも通常順位のなかではトップスターでしょう。2年生は彼女を学年1位としております。」
「逸材たちが同じ学年にこうも集まるとはな。少子化だなんだと言っても個々のレベルは上がっているようだ。」
科学者として研究を続けていると、やはりこういうことがあれば喜ばしいものだ。少子高齢化が進む現代社会において、量より質を重視する政策は正しいことだ。質を考えた時に、強いものの質を他のものに与えたり、あるいはクローンを造ってみたり、創成心が広がるものだ。
学生寮。広大なこの寮は、一部屋ワンルームで形成されている。生徒数が多い上に交通の便も悪いこの学園では、無料で入れて3食付きのこの寮に入るのが一般的であった。
鈴木翔。超逸材は迷子になっていた。あまり社交的ではない彼はこの学園で出来た友だちは極小数。連絡を取ろうにもちょうどスマホの充電は切れている。
途方に暮れて玄関の方に戻る。玄関というよりは、ホテルのロビーのようなところだ。寮自体が高級ホテルの様な造りとなっており、無料で入れるのに申し訳なさすら感じる。
半ば諦めムードでラーククラシックに火をつけると、どうも生徒同士が揉めているようだった。
片方は男で片方が女。このままだと暴行に発展しそうな空気だ。周りは何故か止めない。
「なんで女の人を助けないんだ?」
当たり前の疑問を近くにいる生徒に投げかける。呆れた顔をしながら
「なんでって…自己責任だろ。」
自己責任と言われたって男が女を殴るのはあまりよろしいことではないだろう。止めに入るべきだろうか。
止めに入ろうとしたときに、男は女に殴り掛かる。かなり本気の殴りだ。
だが、男の動作は止まる。寸前で硬直すると、身体を動かそうとしてもがいている。だが動かない。1ミリたりとも動かない。女はその場から離れると硬直は外れ、勢いよく男は倒れたのだった。
「畜生!このクソ尼!」
男は叫んだ。それを見てこちらも男を止めるために歩み寄る。
「おいおい、やめとけって。あの女は強えぞ。お前よりも」
停止させるだけだと言うのに、能力を解放するのも忍びない。説得を試みるがどうも怒りで頭がいっぱいのようだ。
破裂音と共に男は吹き飛ぶ。周りも彼も彼女も何が起きたのか脳が追いつかない状態に陥る。
「お姉さん、こいつとはどんな関係で?」
暫しフリーズした彼女に話しかける。殴り掛かるということはそれなりの理由があるはずだ。
「え、えぇ。しつこく告白してきたから何回も断ったら逆上してきて…」
痴情のもつれの様だ。最も痴情がもつれていたのは片方だけだが。
「そうなんだ。お姉さん強いね。何年生?」
「私は2年生よ。名前は…高橋。高橋美咲。」
「俺は鈴木翔。よろしくね高橋さん。」
名前なんてどうでもいい。美咲という名前は2000年生まれだと最も多い名前のひとつだ。人のことは言えないが。
「学年1位とスーパールーキーはこうして出会ったのであった。運命ではなく必然なのだ。2人は会うべくして会った。」
イングランド人はそう解釈した。スーパールーキーは2人。イングランド人は鈴木翔の方に可能性を感じていた。
「彼が、いや彼らがこの学校の頂点になる。違うな。なってもらう。」
6カ年計画は始まったばかりだ。




