哀れな野郎
「ンだテメェ。俺と遊びにきたんか?」
大本営発表でももう少し過小ぎみに報告するであろうイリイチの進撃は、もう本校には彼に対抗出来る可能性がある生徒は存在しないという結論をつけるに至る。アーサーの手札はもう尽きた。それだと言うのに、また犠牲を増やすために何も考えることなく向かってくる超能力者がいた。
「……。」
彼は無言だった。闘いにおいて余計な言葉は要らないと言わんばかりに。お喋りな超能力者たちを見慣れていたイリイチは肩透かしを喰らう。だが、彼の実力を見てからは、イリイチも無言になるしかない。
全てを燃やし尽くす。炎というのはなんとも美しいものだろうか。12月の肌寒い季節に、電子回路の破壊によってより寒さを増していた生徒会本部は一気に燃えるような暑さを覚えた。
「…おい、寒波対策は結構なことだけどよ。これじゃあ暑すぎる。真夏よりも酷い。」
シックス・センスの解除なしに身体強化のみで敵に詰め寄る。擬音が聞こえてくるような蹴りによって彼は吹き飛ぶ。だがそれと同時にイリイチの右脚は、火傷のような状態と化す。
「身体そのものが炎になっている?…いや、そういう事か!」
シックス・センスの作動は、超能力の作動理由を察知することが出来る。脳波によって制御しているはずの超能力は、不思議なことに機械的なものであった。人間の脳内において行われている超能力制御は、どんなに精鋭化しようと、ほんの少しだけでも誤差が生じるのだ。それが一切起きていない。
「なるほど。ライミー、お前もどうしようもない程に度し難い男だな。仮にも同胞であるはずの者に…。」
シックス・センスの限界解除に身体能力の限界解除。イリイチはもはや自分の意思では超能力を作動できない。スマートウォッチによる時間制限が60秒に改められた時には、彼と自分の現状を自嘲するかのような笑みを浮かべた。
「どこの誰だかは知らねェが…。哀れな野郎だ。せめて一瞬で終わらせてやる。」
超能力を人工脳髄のみに任せる。生命線をガラクタに任せる。イリイチのようなどうしようもない理由からでも、溺れるような力への渇望からでも、それらの通る道は見えているものに過ぎない。
「……!」
「人工脳髄で超能力の式を思考すんのはよ…。中々誤差に気がつけないものだ。普通の超能力者でも気づけないってのに、取ってつけた脳みそで気がつけるわきゃねェだろうが!!」
脳波改竄はイリイチの独壇場だ。炎による迎撃が不発に終わり、さらに自らを保護するはずの炎すらも纏えていない事実に気がついた時にはもう遅かった。
「じゃあな!」
喩えるなら爆発と言えるような、イリイチの握りこぶしによって発生した歪みは、彼の胴体部分の大半を吹き飛ばした。
「さすがに動けねェか?そりゃそうだ。脳が無事でも胴体が吹き飛べは動けない。ま、あとちょっとだけ待ってろ。あの世へ送還してやるかんよ。」
消火斧によって、彼の頭は綺麗に割れた。息の根が止まり、そして脳のある部分からは、人工で造られたであろう脳髄が出てきた。
「解析すりャ、俺の脳髄にアップデート出来そうだな。」
酸素注入器を使い、イリイチの脳髄に酸素を行き渡らせる。落ち着いた気分を取り戻し、いよいよ、グレート・ゲームの最終幕に向かっていくのであった。




