不毛の極みのような決着
「おいおい!!もっとやる気出せよォ!!これで終わりか学園横浜最高戦力様よォ!!」
もはや瓦礫の山と化し、一般人に対する被害はおろか、第2校にいた生徒の中にも死傷者が出ている地獄を表現するかのような、第2校だった場所では、義経と阿部に起きた闘いの決着が着きつつあった。
「バケモンめ…。なるほどな…。アーサーが入れ込んでた訳が分かったよ…。」
義経に蓄積された被害は、阿部とほぼ同等ではあるが、阿部の持ち前の頑強さによって、戦局の態勢はもう決まっている。
「じゃ!死のうか?」
猛攻の堰が切られようとしていた時だった。つい10分程前に落ちていた翔が立ち上がる。余計な感情が消えたように見える彼は、華奢な身体付きからは想像もよらないような威圧感を醸し出している。
「先輩…。こいつやっちゃいます。」
「あ、あぁ、やってこい。」
普段の惚けているような雰囲気は消え去り、冷酷な破壊装置としての彼が全面に現れる。あまたの修羅場を括り抜けてきた義経すらも、畏れを覚えるような雰囲気だ。
「やっと本気を出したか…。そうこn…」
阿部が言葉を言いきれなかったのは、目の前に浮かんだ無数に等しい瓦礫が一直線に彼に向かっていることに気がついたことと、それを起こしたであろう張本人がそれを無視して自分に向かってくることに起因する。
「お、お前…。自殺する気か!?」
まるで聞こえていない。浮かんだ瓦礫、無機物は意思を持ったかのように、翔の通る道には降りてこない。
「あばよ。」
目と鼻の先に詰め寄られ、機械的な低い声が阿部の耳に届いた瞬間に、翔の右手は黒い渦を巻き起こす。それが阿部の身体を触れると、文字通り彼の身体は細胞1つ、髪1本と残さずに消滅した。
それを呆然と眺めるだけだった義経は、彼が再び倒れ込んだのと同時に瓦礫も消滅したのを確認した。
「もしかしたら…。とんでもねェ化け物の誕生を拝んちまったかもな。」
感情によって能力の力を左右される。脳の思考によって超能力を行使する超能力者に取って致命的とも取れる弱点は、彼に限ればそれは制御装置としての作動装置になるのだ。
「ま、とりあえず横浜に連絡しねェとな。第2校での戦闘は、1人の超能力者によって、第2校の崩壊として終結したって…。そんな荒唐無稽なことを誰がしんじるんだ?目撃者は気絶してるか、死んでるか、消滅したか…。」
翔の行った行為は、学園横浜に発覚した場合には、軍法会議ものだ。横浜の生徒1000名弱を初めとして、本校の生徒や第2校の生徒、おまけに第2校はもう何ひとつとして建物と呼べるものは残ってはいない。事情を知らない者から見れば意味不明の極みのような状態である。
「……俺が黙っていればこいつは何も起きないだろうな。証拠がない。もしかしてそれを狙ってたのか?いや、半分自爆みたいなものだしな…。」
義経の悩みは尽きない。ひとつ言えることは、ここにはもう何もないということだけなのだ。気絶した翔をたたき起こし、記憶があるかどうか問いかける。
「なにも覚えていないっす。なにも、なにも…。まるでここ数時間の記憶が。」
「そうか…。説明は後でもできる。とりあえず横浜に一旦帰投しよう。」
空間移動超能力者の手配を要請し、第2校での闘いは、不毛の極みのような決着を見た。救急車や消防車がサイレンを鳴り止ますことなく、作業に当たっている第2校だった場所から、彼らは去っていた。
チートにはチートを。




