虚空夜叉の憂鬱
「なんでだろうなァ。」
12校の中でも、超能力者の基礎的段階である「夜叉」を使える生徒は年々減少気味であった。科学力の発展によってわざわざ苦しい訓練をこなして超能力者として開花する。そんな昔ながらの泥臭さに溢れたものは何処かに消えてしまったのだろうか。
それは3つに分けられる「夜叉」のうち、最上位である「虚空夜叉」が学園が認知している限りは柴田公正ただ1人という所からも証明ができるだろう。学園横浜が他の学園に比べて秀でている理由の1つに挙げられるのは、結局のところは「第六感」と「万物破壊」とそれに匹敵しうる「虚空夜叉」の存在なのだ。精神制御の頂点に立つシックス・センスと攻撃における火力が無限に等しい万物破壊に並ぶ虚空夜叉というものは、本当の意味で超能力という超能力を極めた者にしか与えられない称号なのだ。
「俺は平和主義者なんでね。大人しく本校に帰るってんなら、これ以上何もしねェよ。」
本校の指令と同時に立ち上がった最後のレジスタンスたちを1人で鎮圧すると、彼はやる気がないような、覇気のこもっていない口調でそう言った。
「な、情けをかけるのか!?舐めやがって!!」
彼らの1部が食い下がろうとしてきた。食いしん坊な彼らの存在に心底呆れたのか、光速1歩手前の速度で再度鎮圧を測る。
「情けでもなんでもない。俺のこの力はよ、同胞を傷つけるためのものじゃあない。だからできる限りは傷つけたくないんだよ。分かったr…。」
そんな彼の嘆きを否定するかのように、また別の方面から攻撃はやってきた。ため息混じりの公正は、憂鬱な感情に拍車がかかったのか、そちらを向いて再度ため息をつく。
「辞めろって言ってんのによ。俺がマジになったら、一体誰がこの闘いを停めるんだ?なぁ?」
「その心配は要らねェよ!柴田公正!学園横浜序列第3位!現状唯一の虚空夜叉さんよォ!」
恐らくは本校が横浜に送り込んだ兵隊の中でも最高クラスの超能力者なのだろう。天夜叉や虚空夜叉のみが生やしている白い羽根が輝きを放っている。
「学園横浜をぶっ潰して最上位の夜叉になろうと思ったがよ…。やっぱ虚空夜叉のお前を潰すのが手っ取り早いみたいだなァ!」
本校所属の夜叉と呼ばれる超能力者の中で、公正に肉薄しゆる存在は1人しか居ない。「天夜叉」岡本一太だ。彼は最高潮の昂りを感じ、やがて「虚空夜叉」である公正を倒すことにより、学園上位層に潜り込む構えだ。
「そうですか。そうですか。すごいですね。」
冷めきった声と退屈しきった顔は、公正の今の認識をそのまま感じさせるものだった。だがその認識は思いのほか善戦をすることになる岡本によって覆される事となる。
恋は渾沌の隷也




