全ては今のためにある。
内に秘めた恐れを共有することほど有意義なものはない。それが取るに足らないもであろうとも、世界の暗部に突き刺さるものだろうと。感情を共有することによって、また新たな関係を築き上げられる。
彼らは恐れているのだろうか。恐れを知らないものは上には立てない。たとえ彼が第六感を自在に操り、平等に死を与える殺戮者であろうと恐れるものは確かに存在するのかもしれない。
スラヴ人とイングランド人と日本人は別れ、彼たちの場所へ向かう。楽しげなイングランド人は他人が混乱しているのを見て悦に浸る、まさに人格破綻者であった。ブリテン島が造ったものというよりは、彼本来の性格から来ているものなろだろう。
日本人は、自分の持つ力を確信していた。裕福な家庭に生まれ、親の愛情、そして周りとの愛情を持ちながら生きてきて、傍から見れば不満なことなど何一つなさそうにも見えた。それでも彼の心が乾いているのは、彼自身の力に拠るものなのだろう。目に映るものを破壊し尽くす力。文字通りの破壊。彼がそれに気づいた時には、もう後戻りは出来なくなっていた。
そしてスラヴ人。日本人とは全く逆の生き方をしていた。生まれた時から1人。誰から求められたわけでもなく、暗殺から虐殺まで、殺とつく行為はなんでもこなしてきた。彼もまた自分の力を確信していたし、例え敗北によって銃殺寸前になろうとも、それでも生き延びられることをやはり確信していた。
生き方も、哲学も、人種も、そして能力すら違う彼らは今日もう1つ確信したことがあった。
「やつは間違いなく俺より強い。」と。
「学園長殿。やはりあの2人は素晴らしい。彼らは今すぐにでも実戦導入が可能でしょう。紛争もテロも内戦も戦争も。そして、大国同士が全ての力を使い殺し合う、国家総力戦であろうと、彼らを止めることは出来ません。」
破格の評価の裏には破格の思惑がある。共に表向き裏向き合わせて50億円で契約したスーパールーキーたちは、現状で完成系であると興奮を抑えられない。
「それは結構。大変結構。スカウトたちにボーナスを支給しなさい。横浜校は彼らを軸に計画を作っていくことにしよう。」
創成学園の学園長。超能力者たちを教え、導く。教導する立場にある男たちにも権力闘争が存在する。2人の少年に対して投資した予算は250億を超える。学園長の裁量で行っているために、もしコケたら、彼らのクビは文字通り飛ぶこととなる。
だがすべてはこの時のためにあるのだ。創成学園横浜校総生徒数5850人。幼稚舎部、中等部、高等部、6歳から18歳。生え抜きたちは12年もの間この学校に所属することとなる。大都市横浜からかき集めた、超能力者としての才能のもつ児童たち。彼ら彼女らが、この学校を構成する、いわば「国民」だ。
そんな栄華を誇るこの学校も、数年前までは破綻の危機に瀕していた。慢性的な赤字状態が続き、大金を叩いて「購入」した生徒も、期待には答えられない。破綻が囁かれるこの学校に入りたくないが故に、契約金は劣っていてもほかの学校に入学する生徒も少なくはなかった。
そんな瀕死の病人は、学園長及びほか教員を総入れ替えして、大赤字覚悟でより大金を出すことでプロスペクトを地元を選ばず、国も選ばず、獲得していった。劇薬を導入することによって、生き延びるか死に絶えるかを神に任せたのだ。
結果から言えば大成功だった。プロスペクトたちは市場価値も上々。長年の赤字は解消され、横浜校は蘇ったのだった。
その総帥が権藤学園長。圧倒的な剛腕と圧倒的なカリスマで、劇薬を飲ませることに成功した彼は、横浜校を世界の頂点にするために、今日も剛腕を振るう。
「高等部生徒会から報告。生徒強化プログラム、中等部合わせて6カ年で質を底上げする計画、6カ年計画の承認を求めています。」
書類を少し眺めた学園長は、少し間をおいて、静かに言った。
「答えは了だ。中等部高等部合わせての強化計画?大いに結構。これからはプロスペクトだけじゃなく、一般生徒たちも強化してかないとな。」
野望は始まったばかりだ。




