兄弟姉妹たち
「まず、目標はあのライミーだろ?あとそれに加担する馬鹿共を捻り潰す。そのために本校へ殴り込むわけだ。徹底的に単純だな?」
「概ね確かね。本校の顔を立ててやる必要はない。やるならとことんやるべき。目的は局地的成功で本校との和平。完全的成功で…本校の植民地化。もう二度と横浜を笑わせたりはしない。」
嬉しそうに相槌を打ちながら、淡々と本校への侵略経路を確認している。肝心な情報が全て統制されている事実に美咲もさすがに戦慄する。
「どうやらこっちは情報で負けているようで。」
「空間移動超能力で転換してもその経路は全て塞がれていると思ってもいい。こんな場所に横浜の兄弟姉妹たちを送れないわ。」
「おいおい、この俺は横浜の生徒じゃあないのかァ?」
学園横浜の所謂生え抜きとして10年間ほど在籍している彼女にとって、横浜の生徒を死地に向かわせることはあまり好ましいことではなかった。第2校に送り込んだ兵隊も肩書きこそ「学園横浜所属超能力者」ではあるが、大半がつい最近になって紛れ込んできた外様である。幼稚舎から在籍している兄弟姉妹たちは、美咲の管理下にて誰ひとりとして戦場には向かっていない。
「横浜の生徒ってのは6歳からここにいる子のことを指すの。貴方みたいな学園横浜在籍歴一年未満の生徒なんてね…。」
「更に言えばロシア人が1人死のうが2000万人死のうがどうでもいいってか?ま、構わねェがな。お前らの持つ素晴らしい優生学理論はどうでもいい。報酬だ。金だ。貴方は本校生徒会会長を狙うという大叛逆行為に幾ら誠意を見せられる?」
暗黙の了解と言うのだろうか。イリイチが要求する報酬はもう既に決まっていた。学園横浜がもう鼻血も出ないように財務管理が杜撰なことも。そしてそれの遠因を作ったのはイリイチ、自分自身であることも。
彼はなぜ強気なのだろうか。眉1つ目1つ逸らさすに嘘を吐けるからか。死にかけの乞食も時の大統領も彼にかかれば同じ1つの標的となるからだろうか。シックス・センスという言わば禁じ手を制限付きではあるが使えるからだろうか。1つ1つを解いていくように、イリイチの口は動き出す。
「貴方にもわかりやすく教えてあげよう。まず、横浜はもう金は出せない。超能力者学園の生徒の頂点を殺ってこいなんてご命令に見合うような金はな。じゃあどうする……?」
大量殺人鬼として悪名を馳せた彼にもとうとう出来た欠点がある。同時にシックス・センスの弱体化をなんとか繋ぎとめられている生命線。イリイチの生みの親、国籍不明の白人娼婦。その娼婦が産むと共に見捨てたイリイチの兄弟姉妹たちの唯一の生き残り。美しい劣等遺伝子、金髪碧眼を持ったスラヴ人。
「まさか…。」
「そのまさかだ。創成所有の軍隊からイリーナのための護衛を引き抜け。あの子の兄としてしてやれることはそれだけぐらいだからな。」
ものの見事に眉1つ動かすことなく、半分事実として、半分虚構として、当然の権利としてイリイチは要求を叩きつけた。
目指せそのうち投稿!!




